- 著者
-
宮川 久美
- 出版者
- 奈良佐保短期大学
- 雑誌
- 奈良佐保短期大学研究紀要 = Bulletin of Nara Saho College (ISSN:13485911)
- 巻号頁・発行日
- no.22, pp.1-13, 2014
この作品は,国語の教材としても道徳の教材としても,心から友を思う友情・真の友情を主題としていると考えられている.そして,「互いに」とは言いつつ,むしろ青おにの,友達のために自己を犠牲にする行為の方に主眼が置かれているようである.しかし,本稿ではこの作品の主題について再検討し,主人公は赤おにであること,青おにの行為は善意から発したものではあったが,真に赤おにの気持ちを理解したものではなかったことを明らかにした.この作品は,「おに」として生まれてきた主人公の赤おにが,「私はおにに生まれてきたが,おにどものためになるなら,できるだけ,よいことばかりをしてみたい.いや,そのうえに,できることなら,人間たちのなかまになって,なかよくくらしていきたいな.」という望みを持ちながら,「おに」は乱暴者である,という偏見差別から自らも自由になれなかったがゆえに,その願いを叶えることの出来なかった悲しみを描いていると考えた. このような,「おに」と「人間」との関係性は,子どもたちの身の回りでも多々あり得ることである.大は,国家間でも民族間でも,村のような共同体の間でも,小は,家と家との関係でも,友達集団同士の関係でも,身近にあるだろう.真の友情,真の融和とは何かを考えるのに適した教材として扱ってこそ,この作品の主題が活かされるだろう.