著者
野村 昭
出版者
島根大学
雑誌
島根大学論集. 教育科学
巻号頁・発行日
vol.8, pp.11-23, 1958-02-28

先にわれわれは青年を用いて,「キツネモチ」、といわれる迷信が,現象的に,現在,どのような出現の様態を示しているかを記述し,それは「憑依現象」としてのキツネモチと,「社会現象」としてのそれとの二面性をもつて顕現しており,その中,殊に「憑依現象」は形骸化し,「杜会現象」として問題化していることを指摘した(1)。すなわち,「キツネモチ」家筋と称せられる一群の人々は,今や「憑かれた」人々や,「キツネを操る」人々であるよりは,むしろ,弱勢なる集団(underprivileged group)のメンバーになつているのである。しかも,80%以上の青年にとつてはキツネモチ現象に対して否定的態度をとりながらも,その否定は多く「憑依現象」に向けられ、必ずしも「社会現象」にかかわることの多くないことを見出したのである。記述的段階での先の研究では,そこから幾つかの態度形成・変容に関する仮説を導出したのであるが,本研究では、殊にこれらの態度を明確に定位するために意見尺度を構成し、更に、それらの尽度を用いて、キツネモチ現象の伝播している地域の相違によつて,態度の変化がどのように見られるかを探索的に見出さむとしたものである。
著者
内山 登美子
出版者
島根大学
雑誌
島根大学論集. 教育科学
巻号頁・発行日
no.7, pp.21-33, 1957-03-30

島根県が,近親結婚の濃厚地の一つであることは,いろいろな資料により,叉機会ある毎に察知出来ることで,農村にも山村にもこの傾向があるが,島根半島の日本海側の漁村部落では,一部落が,1~7姓位で占められている所が少くない。八束郡八束村は外部との交通が少し不便ではあるが,近親結婚が26.8%と報告されている。今年8月八束郡鹿島町恵曇の片句部落の調査では30%を上廻る様な結果が出た。昭和18年9月発行の精神神経科雑誌47巻に,東京大学の精神科資料で兵庫県家島郡島の遺伝負荷の研究が記載されている。これによると同所の近親結婚濃厚地では20.3%と発表されている。これに比較すると島根県は、はるかに上廻つている。八束村とか日本海沿いの漁村は特別かも知れないがいすれにしても,他の先進地に比べて近親結婚が多いことは否定出来ないと思う。こうした血族結婚,ことに数代にわたる近親結婚によつて生れ出る子供に何か影響はないであろうか。最近大きく取りあげられて来た精神薄弱児問題と近親結婚の関係に強い興味を感じた。 叉動物の発生学的研究では身体並びに精神の異常の原因を内因と外因にわけているが,最近は外因に重きを置く傾向が次第に強くなつて来た。糖神薄弱児の原因にもこの傾向がありそうに考えられた。 今一つ,精神薄弱児の知能欠陷が,内因性のものでは軽度で,高度のものは外因性のものに多いといわれる様になつて来たが,この点にも検討の必要を感じた。 恰度,昭和28年頃より島根県立中央児童相談所で乳幼児の研究の機会を与えられ,同所に来る相談児の実態を見聞し,精神薄弱児をもつた家庭の悲惨,両親,兄弟,教師の苦難の状態を見るにつげ,何とか原因をつきとめ,これが未然防止の一助ともなればとひそかに考え本調査に着手した。