著者
内山 登美子
出版者
島根大学
雑誌
島根大学論集. 教育科学
巻号頁・発行日
no.7, pp.21-33, 1957-03-30

島根県が,近親結婚の濃厚地の一つであることは,いろいろな資料により,叉機会ある毎に察知出来ることで,農村にも山村にもこの傾向があるが,島根半島の日本海側の漁村部落では,一部落が,1~7姓位で占められている所が少くない。八束郡八束村は外部との交通が少し不便ではあるが,近親結婚が26.8%と報告されている。今年8月八束郡鹿島町恵曇の片句部落の調査では30%を上廻る様な結果が出た。昭和18年9月発行の精神神経科雑誌47巻に,東京大学の精神科資料で兵庫県家島郡島の遺伝負荷の研究が記載されている。これによると同所の近親結婚濃厚地では20.3%と発表されている。これに比較すると島根県は、はるかに上廻つている。八束村とか日本海沿いの漁村は特別かも知れないがいすれにしても,他の先進地に比べて近親結婚が多いことは否定出来ないと思う。こうした血族結婚,ことに数代にわたる近親結婚によつて生れ出る子供に何か影響はないであろうか。最近大きく取りあげられて来た精神薄弱児問題と近親結婚の関係に強い興味を感じた。 叉動物の発生学的研究では身体並びに精神の異常の原因を内因と外因にわけているが,最近は外因に重きを置く傾向が次第に強くなつて来た。糖神薄弱児の原因にもこの傾向がありそうに考えられた。 今一つ,精神薄弱児の知能欠陷が,内因性のものでは軽度で,高度のものは外因性のものに多いといわれる様になつて来たが,この点にも検討の必要を感じた。 恰度,昭和28年頃より島根県立中央児童相談所で乳幼児の研究の機会を与えられ,同所に来る相談児の実態を見聞し,精神薄弱児をもつた家庭の悲惨,両親,兄弟,教師の苦難の状態を見るにつげ,何とか原因をつきとめ,これが未然防止の一助ともなればとひそかに考え本調査に着手した。
著者
内山 登美子
出版者
島根大学
雑誌
島根大学論集 教育学関係 (ISSN:04886526)
巻号頁・発行日
no.8, 1958-07

現代の教育は教師の理論の押し付けや,教科内容のたたきこみであつてはならないことはいうまでもなく,さらに児童,生徒の自発的活動を引出し,その意慾を核心としてつみあげられねばならない。とすれぱ教育の理念,方法,教科内容なとの教師側に属すると普通考えられるものをよく研究するとともに,児童,生徒側,すなわちその素質,環境,関心などをよく知ることが,これまた必要不可欠なことである。 児童生徒に関する一般的知識は近来非常に高まつて来ている。すでに多くの研究業績も発表されている。しかしこれを細かく考えると,いろいろな立場や観点から沢山な階層,集団にわけることが出来,それぞれの分野における研究となれば,ようやく始まつたばかりであるといつても過言ではあるまい。 この研究は島根県下の一漁村部落,とくに近親結婚の濃厚な地帯における学童の身体発育並びに精神発育の実態調査である。 遺伝が身体並びに精神発達に深い関係のあることはいうまでもない。とくに近親結婚がこれ等にどういう結果を示すかについては,特殊な事例の研究は詳細なものがあるが,一般的なものは比較的少ない。近親結婚がややともすると望ましくない結果となることが認められて、最近は近親結婚の集団的な存在は段々少くなつて来ているが,後進地域であり,貧困な島根県においてはまだまだ近親婚の濃厚地が少くない。この研究の対象とした学章の地域もその一つである。 以上のような観点から遺伝特に近親結婚が学童の身体並びに精神発育にどんな関係を持つかを明かにし,現代における学校教育並びに杜会教育の推進にいく分かでも役立てたいというのが私の期待である。I