著者
安村 典子 Yasumura Noriko
出版者
金沢大学文学部
雑誌
平成18(2006)年度科学研究補助金 基盤研究(C) 研究成果報告書 = 2006 Fiscal Year Final Research Report
巻号頁・発行日
vol.2005-2006, pp.100p., 2007-05-01

ギリシア喜劇は紀元前6-5世紀のアテーナイにおいて、独特の発展を遂げた。当時作成された多くの喜劇作品のうち、現在ではアリストパネースの11作品が残るのみである。本研究では、このうちアリストパネース最晩年の作である『プルートス』に焦点を定めて考察を行った。 まず研究の初年度は『プルートス』全1209行の古典ギリシア語の日本語訳を行った。本作品の日本語訳は、昭和36年に出版された『ギリシア喜劇』(人文書院、後にちくま文庫に収録)があるのみで、その後一度も改訳が行われていない。このため古い訳語を避けた、よりわかりやすい翻訳書の出版が望まれている。したがって本研究ではまず、原テキストからの全く新しい翻訳を試みた。 研究の2年目は、新訳に沿って、詳しい訳注をつける作業に費やされた。この新訳と訳注は、近年中に岩波書店より発売予定の『ギリシア喜劇全集』に収録されることになっている。 『プルートス』は「富をもたらす神、プルートス」をめぐる喜劇である。経済的豊かさと、それにむらがる人間の欲望に対して、アリストパネースは痛烈な批判を行っている。「富」とは何であり、それは人間にとっていかなる意味をもっているのか。アリストパネースが提起しているこの問題はきわめて今日的なテーマであり、2500年の時を越えて、今なお我々に鋭く問いかける視点をもっている。アリストパネースのこのような鋭い問題提起に対して、今後も引き続き研究を行ってゆきたい。