著者
前嶋 和弘
出版者
敬和学園大学
雑誌
敬和学園大学研究紀要 (ISSN:09178511)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.81-107, 2008-02

アジア系アメリカ人の政治参加と代議制の現状を分析するのが本稿の目的である。1965年移民法改正をきっかけにして、アジア系アメリカ人の人口は急速に増加しつつある。アジア系アメリカ人は、他の人種マイノリティ集団と比べ、比較的裕福であり、教育レベルも高いため、「経済的状況、あるいは教育レベルと投票率との問には高い正の相関関係がある」とするこれまでの様々な研究に従うと、アジア系の投票率は他の人種マイノリティ集団に比べて、高いはずである。しかし、実際はアジア系の投票率は比較的低い状況にある。これには様々な理由がある。例えば、アジア系には移民が多く含まれており、言葉の問題もあるほか、アメリカの政治制度に対する知識が十分とは言えず、投票についての政治的有効性を見出せない状況にある。アジア系の中のエスニシティ間の差も大きく、特に難民として入国したカンボジア系の場合などにこの傾向は強い。また、一般的に権威に比較的従順であるというアジア系の性格も関係しているという見方もある。アジア系の場合、十分に民主的とはいえないような出身国からの移民も多く、政治参加そのものに対する知識が十分とは言えない。さらに、アジア系は勤勉であるといわれており、平日を投票日としているアメリカでは、仕事を休んでまで投票をしないケースも少なくない。一方で、90年代後半からアジア系の投票促進(get-to-the-vote)運動も盛んになっている。これは連邦議会や一部の州レベルで主にアジア系を対象とする二力国語教育政策への反発や、アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の制限などが目立ってきたため、これに危機感を感じてアジア系が団結し始めていることに関連している。アジア系の団結はアジア系の代議制にも影響している。アジア系の議員については、アジア系の人口が集中しているカリフォルニアやハワイ両州などの地域にこれまで限られてきたが、アジア系アメリカ人が多いとはいえない州についても変化が生まれている。特筆できるのが1996年にワシントン州の知事に当選したゲーリー・ロックの選挙戦である。この選挙ではアジア系アメリカ人が団結して1人の候補を応援した。また、この選挙では、アジア系以外のリベラル層にも幅広い支援を取り付けて成功したこともあり、今後のアジア系のや他のマイノリティ集団の選挙活動のモデルになるとみられている。