著者
松田 純子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・生活造形学研究 (ISSN:0919780X)
巻号頁・発行日
no.30, pp.139-148, 1999-01

「空間」と「場所」については,様々な環境論が展開されている。しかし近似したこのニつの概念に対しては,人間の存在と「場所」を統一体としてとらえることは少ないように思う。本稿では,人間と「場所」とのつながりを研究している,イーフー・トゥアン(1930~)の「空間」に対する,人間の知覚経験の重要性と,それによって獲得する, 「空間」と「場所」の諸価値について取り上げ,その機能と意味について考察する。トゥアンの人間の身体レベルからとらえる「空間」と「場所」理論においては,「空間」のなかに,自分を基礎づけようとするために用いる様々な「場所」は,個人的経験によってのみ存在する安全で自由なものである。一方で,急速に変化してしいく社会が,人間中心の「場所」を変化させてしまい,長い年月の安定した環境は望めなくなってしまっていることを,我々は考えなくてはならない。そこには,人間の現存在の持続性と,変異変遷する「空間」の問題が反映しており,人間にとって親密な「場所」の形成過程を探る上で,重要な意味をもつ問題である。
著者
神部 晴子
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 服装学・生活造形学研究 (ISSN:0919780X)
巻号頁・発行日
no.31, pp.51-64, 2000

1910年代、イタリア未来派画家ジャコモ・バッラ(Giacomo Balla) は、当時のメンズスーツに革新的なアイデアを持ち込み、19世紀初頭から続いていたメンズスーツの固定化したスタイルの改革を試みた。同時代のヨーロッパは20世紀初頭にイタリアで誕生した未来主義があらゆる分野に姿を見せ始めた時期でもある。未来主義者はイタリアの伝統に過度の重みを感じ、その歴史的遺産を破壊しようとしていた。次々と宣言を発表し、その全てが破壊しなければならないものに向けられた。そのひとつに1914年5月「LE VETEMENT MASCULIN FUTURISTE Manifeste(未来派男性衣装宣言)」と同年9月「IL VESTITO ANTINEUTRALE Manifesto futurista (未来派反中立衣装宣言)」がある。それは暗い色、対称的なシルエット、糊のきいたカラーやカフスといった伝統的なメンズスーツを廃止し、軽快で、衛生的、そしてダイナミックな色やデザインといった未来派的な新しい衣装を提案したものであった。成功するには至らなかったものの、今でも内容的に高い関心を持たれている。本論文では、バッラが創作した未来派スーツと各衣装宣言に書かれた内容と意味主張について未来派との関連において調べてみた。