著者
松田 伊作
出版者
九州大学文学部
雑誌
文学研究 (ISSN:03872823)
巻号頁・発行日
no.65, pp.35-66, 1968-03
著者
土橋 寛
出版者
奈良学芸大学国語国文研究会
雑誌
文学研究
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-3, 1955-12-01
著者
迫野 虔徳
出版者
九州大学文学部
雑誌
文学研究 (ISSN:03872823)
巻号頁・発行日
no.85, pp.p1-19, 1988-02
著者
西山 猛
出版者
九州大学文学部
雑誌
文学研究 (ISSN:03872823)
巻号頁・発行日
no.89, pp.p219-234, 1992-03

『孟子』の指示詞近称には,一般的には「此」が用いられる。ところが所有格においては,「斯」が用いられることもある。これは『論語』、『禮記』檀弓が指示詞近称に専ら「斯」を用いるのとは異なる。『孟子』における指示詞「斯」と「此」との違いは何か。――「斯」が用いられた場合には,その被限定語に例外なく尊敬、尊厳の意味が附与される。それに対して,「此」が用いられた場合には,そのような現象は起こらない。「此」には却ってその被限定語に非難、軽蔑の意味が附与されるような場合もある。では如何にしてこのような語用が生成したのか。――「斯」を指示詞近称に用いるのはもともと斉・魯方言の一つの特徴であった。しかし戦国期の孟軻及びその対話者にとっては,他の地域と同様「此」を用いる方が一般的になっていたのである。「斯」という語を指示詞として用いるのは,その当時の斉・魯方言の中では,衰退しつつあった古風でみやびな言葉遣いであると感じられたであろう。それは漢代以降「此」が大勢を占めることからも類推できる。このように考えてくると,以下の如く結論づけることが可能である。「斯」という語を用いることによって尊敬、尊厳の語気が生じるのは,その語用が古風でみやびな言葉遣いであったからである。戦国期の斉・魯方言において,その発話者が「斯」の語用を古風でみやびな言葉遣いであると感じることができたのは,その当時「斯」の語用が衰退しつつあったという特殊な環境があったからである。よって『孟子』においてこのような特殊な語用が生じたのである。