著者
梁 明秀
出版者
日本プロテオーム学会(日本ヒトプロテオーム機構)
雑誌
日本プロテオーム学会大会要旨集 日本ヒトプロテオーム機構第7回大会
巻号頁・発行日
pp.108, 2009 (Released:2009-09-14)

タンパク質のリン酸化は増殖や分化といった数多くの細胞の機能を調節する上で極めて重要なメカニズムの1つである。しかしながら、いかにしてリン酸化されたタンパク質がリン酸化に引き続いて機能を大きく変化させるかという機構については不明な点が多かった。ペプチジルプロリルイソメラーゼPin1はリン酸化されたセリン/スレオニン-プロリン(Ser/Thr-Pro)というモチーフに結合し、そのペプチド結合を介してタンパク質の構造をシス・トランスに異性化させることにより、リン酸化タンパク質の機能を調節する新しいタイプのレギュレータである。 この 新規の“リン酸化後”調節機構は標的タンパク質の活性、細胞内局在、安定性等を変化させ、リン酸化タンパク質の機能発現に重要な役割を果たす。最近の研究により、Pin1は乳癌や前立腺癌などの悪性腫瘍およびアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の病態形成に極めて重要な役割を果たすことが明らかになった。また、Pin1ノックアウトマウスを用いた研究により、Pin1は上記疾患のみならず、網膜変性症、精子低形成症、自己免疫疾患などの難治性疾患の形成に関与することも示唆されている。このようにPin1が多くの疾患に関与するのはなぜであろうか? それはPin1がエフェクター因子として直接疾患形成に関与するわけではなく、あくまでもリン酸化タンパク質の調節因子として、リン酸化を介した疾患形成因子の機能発現に関与しているからであると考えられる。実際に、Pin1 の基質となる機能タンパク質は、臓器、細胞ごとにその種類が異なり、また同一の組織や細胞内においても正常時と疾患時ではPin1基質タンパク質のリン酸化状況やPin1との結合性も異なる。 我々はこのPin1 の特性を生かし、Pin1を分子プローブとして用いることにより、難治疾患の形成に直接関与する責任分子や関連するシグナル伝達系の同定を試みている。本演題ではPin1のベーシックな機能や構造について概説するとともに、Pin1を介した疾患形成の分子メカニズムについて最近の知見を紹介する。