著者
猪野又 友美 財津 庸子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第53回大会・2010例会
巻号頁・発行日
pp.86, 2010 (Released:2011-01-13)

1.研究目的 現代の生活においては、ファッションが楽しみのひとつとして受け入れられ、衣服が自己表現の手段としても発展してきた。一方で、生活環境は個人の衣服に対する意識や行動に、大きく影響を与えている。特に都市部と周辺部の子どもの間では衣服についての意識や行動に差が生じているのではないかと考えられる。都市部と周辺部の子どもの間に「被服行動」に関する意識や行動に差があるとすれば、家庭科の被服分野では、それぞれの実態により適した授業を行う必要性があろう。そこで、本研究の目的は、_丸1_中・高等学校家庭科の被服分野において、都市部と周辺部のそれぞれの子どもの「被服行動」の違いとその要因をアンケート調査により明らかにし、_丸2_その結果を踏まえ、実態に応じた指導を行うための題材や指導方法を具体的に検討するための基礎資料を得ることとする。 2.研究方法 調査対象は、大分県内の都市部及び周辺部の中・高等学校各1校ずつの計4校である。回収数は中学校168部、高等学校542部の計710部である。調査内容は、被服購入時の様子に関する項目が11項目、被服行動に関する項目が31項目である。「被服行動に関する項目」は、先行研究を参考に、次のように設定した。_丸1_最近のファッションへの興味や流行をとりいれるなどの「流行性」、_丸2_店ごとの価格比較やバーゲンセールの利用などの「経済性」、_丸3_学校の制服や雰囲気に応じるなどの「社会規範」、_丸4_品質や取り扱い表示の確認などの「機能性」、_丸5_友人の着ている服が気になるなどの「他者承認期待」、_丸6_人と違うファッションや魅力を引き出すなどの「自己顕示・表現性」という6尺度について5項目前後の質問を設定した。 3.結果及び考察 「被服購入時の様子に関する項目」において、被服購入時の同伴者、移動時間、情報源の3項目で顕著な差が見られた。同伴者では、周辺部では家族、都市部では「友人」や「自分だけ」など家族以外の傾向が高かった。移動手段では、「自動車」と回答した生徒が両地域とも圧倒的に多かったため、自動車での移動時間を比較したところ、周辺部では「30分~1時間」、都市部では「10~20分」と回答した生徒が最も多く、都市部の方がより身近に被服購入の店舗があるということが推察される。情報源では、周辺部は「テレビ」、「インターネット」、「家族」、都市部は「雑誌」、「友人」、「街中で見かける人の服」が多く、都市部の方が、被服に関する情報が、より身近に接しやすい環境であるといえよう。 また、「被服行動に関する項目」をカイ二乗検定によって分析した結果、周辺部と都市部の間で有意差及び有意傾向の見られた項目は、全31項目中、中学生では11項目、高校生では15項目であった。特に有意差の見られた尺度は、中学生では「自己顕示・表現性」、高校生では「経済性」及び「自己顕示・表現性」であった。この結果より、都市部の方が、被服行動に関する意識が高く、中学生より高校生の方が、有意に意識が高い傾向にあることがわかった。 このことから、周辺部では、全体的に意識が低いため、被服行動における全体的な意識の底上げ、都市部では、最も意識の低い「機能性」を意識させながら、目的に応じた被服選択を行う必要があると考える。 以上の点を配慮した指導方法・学習内容、及び教材等を検討していくことで、より有効な生徒の実態に応じた被服行動に関する授業の展開が可能になると考える。