著者
表 真美
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集 第55回大会・2012例会
巻号頁・発行日
pp.52, 2012 (Released:2014-02-01)

【目的】 瀧井宏臣は子どもたちのライフハザードとして「悲しき食卓」をあげ、母親が市販のベビーフードを利用することを批判している(註1)。一方、子育て不安に関する最近の調査では、「離乳食」を不安に思う母親が増加していたことが報告された(註2)。離乳食は、食べる量が少量であるにもかかわらず、準備に手間と時間がかかるが、せっかく手作りしても子どもが食べてくれないことも多い。市販のベビーフードを「よく」あるいは「ときどき」使ったと回答した母親は合わせて68.8%だが、「手作りを与えたい」との回答も6割にのぼることが、1歳半の子どもを持つ母親を対象とした調査でわかった(註3)。また、厚労省の調査では、8割以上の対象者が「愛情」面で手作りの方が優れていると回答した(註4)。母親は罪悪感を抱えながらベビーフードを使っている。大日向雅美は、子育て期の母親が、「無頓着過ぎる親とがんばり過ぎる親」に大きく二極分化していることを指摘する。がんばり過ぎる母親は完璧に出来ないと傷ついてしまうという(註5)。筆者が2009年に行った幼児を持つ保護者を対象とした調査では「家庭科で離乳食の作り方を詳しく教えて欲しかった」との声がきかれた。 そこで本報告では、「手作り」と「ジェンダー」に注目して、これまで家庭科で離乳食に関する教育がどのように行われてきたかを明らかにし、今後のあり方を考察することを目的とする。【方法】 戦後から現在までの中学校・高等学校家庭科教科書における保育領域、食生活領域の記述から「離乳食」に関する内容を抽出し、家庭科における離乳食についての教育の変遷を明らかにした。また、キーワードに「離乳食」を含む雑誌記事、著書における記述と家庭教科書における内容との関連を検討し、今後の教育のあり方を考察した。【結果】 得られた結果の概要は以下のとおりである。1)1950年代から1970年代に発行された高等学校家庭科教科書(G社)には、離乳の必要性、進め方、離乳食の作り方などが、比較的詳細に述べられる傾向にあった。1985年から1991年に発行された教科書(G社)には、「市販の離乳食製品は、加工法・添加物・味などの点でも問題がある」「味覚の形成上常用はさけたい」、との記述がみられる。同時期に「手抜きママ」がベビーフードを使うことを批判する雑誌記事がみられた。一方、現行の教科書(G社)では、乳幼児を含む「子どもの食生活」全体について1頁があてられているなかで、離乳についての4行の説明のみである。2)中学校教科書(K社)では、職業・家庭時代は母乳・人工栄養、離乳、離乳食、幼児の間食が詳細に説明されていたが、1966年の技術・家庭以降は間食を中心とした幼児食のみになり、離乳食の記述はみられない。3)「離乳食」をキーワードにもつ国立国会図書館の収録数は、食育推進連絡会議が設置された(2002年11月)後に件数が急増し、前後5年間の年間平均収録数は、1997年から2002年までの5年間は10.6件、2003年から2007年までは24.2件と倍以上に増加していた。その多くを占めるは手作り離乳食のレシピ本であった。手作りブームのなかで、母親を追いつめることのない指導が望まれる。【註】 1.瀧井宏臣(2004).悲しき食卓 こどもたちのライフハザード 岩波書店 2.原田春美・小西美智子・寺岡佐和(2011).子育て不安の実態と保健師の支援の課題,人間と科学.11(1),53-62 3.天野信子(2011).1歳半健診受診者の母親を対象とした離乳食に関する実態調査.帝塚山大学現代生活学部紀要.7.55-63 4.厚生労働省(2005)平成17年度乳幼児栄養調査5.大日向雅美(2009).離乳食で保護者を追い詰めないために‐指導ではなくエンカレッジを.食生活.103(12).56-59