著者
香内 晃
出版者
一般社団法人 日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集 2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
巻号頁・発行日
pp.1, 2003 (Released:2004-12-31)

1.はじめに 隕石中のいわゆるプレソーラーダイヤモンドの特徴は次の通りである:i) 同位体異常を示すXeが含まれる,ii) SiCやグラファイトより2-3桁多量に存在する,iii)しかし,炭素同位体はsolarである.これまでにいくつかのモデルが提案されているが,以上の3つの特徴をすべて説明できるモデルは存在しておらず,ダイヤモンドの形成機構はいまだによく分かっていない.そこで,星間分子雲から隕石母天体への進化過程で起こりうる有機物の生成・変成過程を再現する実験を行った.2.実験 本研究では,次の2つの実験を行った:1)分子雲中での氷(H2O:CO:NH3:CH4=4:2:2:1)への紫外線照射による有機物の生成と,その有機物が低密度雲でさらに105年紫外線照射を受ける過程を再現する実験,および,2)分子雲有機物が炭素質隕石母天体に取り込まれた後に起こる,水質変成・熱変成を再現する実験.3.結果 1)分子雲で生成された有機物は,電子線回折ではハローパターンを示すが,高分解能電子顕微鏡観察では1 nm程度のダイヤモンド微結晶(または,ダイヤモンド前駆体)とグラファイトの存在が明らかになった.さらに,低密度雲でのさらなる紫外線照射によりダイヤモンドが5 nm程度まで成長することがわかった. 2)分子雲有機物の炭素質隕石母天体での水質変成(100-200oC)および熱変成(200-400oC)により,ダイヤモンド,グラファイト,アモルファスカーボン,カルビンが形成されることが明らかになった.4.議論 隕石中のいわゆるプレソーラーダイヤモンドは炭素星や超新星起源ではなく,星間雲起源だと考えるとこれまで問題になっている以下の事を無理なく説明できる:i)SiCやグラファイトより2-3桁多量に存在することは当然である,ii) 炭素同位体も太陽系と同じ物質からできたので同じで当然である,iii) 超新星起源のXeが星間雲の有機物に打ち込まれ,これがダイヤモンドに取り込まれた.また,プレソーラーダイヤモンドに起源の異なるものがあることや,彗星起源の惑星間塵は小惑星起源の惑星間塵と比べてダイヤモンドの含有率が低いことは,プレソーラーダイヤモンドの一部が隕石母天体で形成された可能性を示唆する.
著者
Zaw Win Ko 榎並 正樹 青矢 睦月
出版者
一般社団法人 日本鉱物科学会
雑誌
日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集 2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
巻号頁・発行日
pp.34, 2003 (Released:2004-12-31)

四国三波川帯・別子地域の瀬場谷中流域は、曹長石-黒雲母帯に属し、変斑れい岩 (250 m × 150 m)を取り巻いて、少量の泥質片岩を伴う塩基性片岩が不定形のレンズ状 (2 km × 1 km) に分布している。これらの岩相からは、散在的にではあるがエクロジャイト相の鉱物組み合わせが報告されており、変斑れい岩と塩基性片岩を主とするレンズ全体はエクロジャイト・ナップの一部をなし、エクロジャイト相の変成作用を経験していないとされる通常の結晶片岩類の上位に重なると考えられている。しかしながら、このエクロジャイト・ナップに属するとされる泥質片岩からは、エクロジャイト相での平衡を示す岩石学的・鉱物学的デ-タは報告されていない。そこで、泥質片岩中からエクロジャイト相変成作用の情報を読みとることを目的として、クロリトイドを含む泥質片岩に注目して研究を行った。その結果、新たにクロリトイド+バロワ閃石の共生を見いだした。今回はこの共生が、エクロジャイト相条件下で安定であったことを論じる。 検討した2試料において、クロリトイドと黒雲母が、ざくろ石の包有物としてのみ産する。そのほかの鉱物としては、ざくろ石、バロワ閃石、パラゴナイト、フェンジャイト、緑泥石、緑レン石、石英、電気石、チタナイトおよびルチルが認められ、パラゴナイト以降の鉱物は、ざくろ石の包有物としても産する。曹長石は、ざくろ石の包有物としては認められないが、基質部にバロワ閃石や緑泥石をともなう細粒集合体として、きわめてまれに産することがある。クロリトイド:mg# [= Mg/(Mg+Fe)]値は0.29-0.33であり、中・低圧変成岩中のもの(mg# ざくろ石:結晶の中心部から周辺部にかけて、MgとFeが増加し、Mn およびCa が減少する昇温型累帯構造を示し(Alm49-66Prp8-18Grs14-24Sps2-23)、曹長石-黒雲母帯に属するクロリトイドを含まない泥質片岩中のざくろ石 (Alm25-73Prp1-12Grs13-39Sps0-50) に比べて、Mgに富む。バロワ閃石:Al (1.65-2.34 pfu) とNa (0.95-1.57 pfu) に関して広い組成範囲を有し、曹長石-黒雲母帯に属する他の泥質片岩中の角閃石 (Na 緑泥石:基質の緑泥石は均質(Si = 2.7-2.8 pfu, mg# = 0.60-0.64)である。一方、包有物として産する緑泥石は、Si量が3 pfuを超えて広い組成範囲を示し (Si = 2.7-3.3 pfu, mg# = 0.50-0.73)、それは緑泥石とタルクがサブミクロン単位で互層していることによると解釈される。 Holland & Powell (1998)の熱力学データベースを用いて見積もった、クロリトイド+緑泥石+バロワ閃石+ざくろ石+パラゴナイト+石英の組成共生の平衡条件は、540-570 C・1.6 GPaである。一方、緑泥石+クロリトイド+ (タルク) の共生から得られる圧力条件は、550 Cにおいて1.8-1.9 GPaである。これらの平衡条件は、エクロジャイト・ナップの下位に位置するとされている周囲の結晶片岩類 (500-580 C・0.8-1.1 GPa) に比べると、有意に高圧条件を示し、変斑れい岩および塩基性片岩中のエクロジャイト共生の平衡条件 (610-640 C・1.2-2.4GPa) とは矛盾しない。今回の研究結果は、泥質片岩を含めてレンズ部の結晶片岩類全体が、エクロジャイト相変成作用を経験したことを示しており、エクロジャイト・ナップの存在を強く示唆す