著者
関口 和美 星崎 和彦 小林 一三
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第115回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.C02, 2004 (Released:2004-03-17)

1.はじめに 渓畔域では、植物は様々な形で河川撹乱に依存した生活史をもっている。日本の山岳河川では、土砂の移動を伴う河川撹乱を抑えるために砂防堰堤が数多く設置されてきたが、近年、堰堤建設に伴う植生への影響が懸念されている。 本研究では、砂防堰堤の下部、上部およびそれより上流部の植生を比較することにより、砂防堰堤が渓畔植生構造に与える影響について調べた。砂防堰堤の建設によって、_丸1_立地環境が変化し、_丸2_群落が単純化したり、_丸3_樹林化すると予測し、調査結果に基づいてこれらの予測を検証した。2.調査地 岩手県奥羽山系焼石岳南麓の胆沢川支流の上ノ倉沢で調査を行った。砂防堰堤を含む流路沿い約200m範囲の氾濫原に調査区を設置した。3.方法(1)立地環境調査 2002年8月に流路に沿って立地を流路沿い、旧河道、残丘、岩場、森林部分の5つに区分した。光環境の調査として、9月の曇天時に流路に沿って全天写真を撮影し、開空度を求めた。(2)植生調査 植物種の分布と種多様性を検討する目的で、植生の切れ目や立地の違いをもとに植生パッチを認識し、8月から9月にかけて植生調査を行った(n = 40)。高さ3m未満の維管束植物を対象に、植生パッチごとにパッチの大きさと出現種を記録した。また、環境要因の分析のために植生パッチごとに開空度、比高、基質の粒径、リターの出現頻度を調べた。(3)樹木調査 樹林の発達の程度を検討するために、樹木調査区を設置し、9月から10月にかけて毎木調査を行った。樹高3m以上の樹木を対象に種名、胸高直径を記録した。樹木調査区は、堰堤下部、堰堤上部、上流の森林部分と岩場の4つに区分した。 また、樹木調査区の堰堤下部、堰堤上部、上流部(森林部分)の各々から8本ずつ(胸高直径の太い順)を選び、年輪コアサンプルを採取して樹齢を調べた。4.結果(1)立地環境の変化 堰堤周辺には旧河道、残丘、岩場は存在せず、上流部より微地形が単純化していると思われた。また堰堤周辺では開空度が30%を超え、上流部よりも明るかった。これには堰堤建設時の伐採が深く関連していると思われた。(2)群落の単純化 堰堤周辺では上流部に比べ植生パッチ面積が大きくなっていた。 調査した植生パッチでは57科112属146種の維管束植物が確認され、植生パッチ面積が大きくなるほど種数も増加する傾向があった。面積に対する種数の割合は堰堤周辺と上流部で大きな差はみられなかった。 種の豊かさや均等度を表す多様度指数としてGleason指数、Shannon's H'、Simpson指数、Pielou's J'を用いて植生パッチ内の種の多様性について検討した。どの指数も堰堤周辺と上流部で大きな差はみられなかったが、出現種の生活形ごとに同様の解析をしたところ、堰堤周辺では上流部よりも若干高木種が高く、藤本種が低い傾向があった。 DCAを用いて各パッチの種組成の違いを表す軸を抽出した結果、上流部のパッチは軸上に幅広く分布していた(パッチ間のβ多様性が高い)。一方堰堤周辺のパッチの傾度幅は狭く、類似した種組成をもつことが示された。これらのパッチは明るく、比高が低く、リターが少ない傾向があった。同様に、上流部のパッチの基質は様々な粒径分布を示したのに対し、堰堤周辺では土と石に二極化していた。(3)樹林化 毎木調査の結果、堰堤上部での立木密度はその他を大きく上回っていた。堰堤上部では胸高断面積合計も森林部分の60%に達し、樹林化の進行が裏付けられた。堰堤周辺の出現種は上流部と異なり、ヤマハンノキやヤナギ類が優占していた。これら堰堤周辺の樹木の多くは樹齢27年未満であり、堰堤完成後に進入してきたことが明らかになった。5.考察 堰堤周辺では、河川の勾配が緩やかになることで微地形が単純化し、明るくなっていた。堰堤周辺における植生パッチ内の基質の単純化やパッチの大型化、樹林化の進行は、土砂が堆積し立地が安定化したためであると考えられた。そして、それらの環境の変化が堰堤周辺の単調な種組成に反映していると思われた。
著者
大村 和也 澤田 晴雄 千嶋 武 五十嵐 勇治 斉藤 俊浩 井上 敬浩
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第115回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.P3032, 2004 (Released:2004-03-17)

渓畔林再生実験におけるシカ食害対策○大村和也・澤田晴雄・五十嵐勇治・齋藤俊浩・千嶋武(東大秩父演)、井上敬浩(東工コーセン(株)) _I_.はじめに 東京大学秩父演習林では人工構造物等の布設により失われた渓畔林を再生する実験を行っており2001年に自生種の植栽を試みた。しかし、ニホンジカ(以下、シカという。)の著しい食害を受け植栽木の大部分が枯損する結果となった。そこで、2002年にシカ対策を施したうえで再度植栽を行い、その後の成長経過を調査してきた。本報では2002年から2003年にかけての調査結果にについて報告する。なお、本研究は東工コーセン株式会社(以下、東工コーセンという。)との共同研究として行われた。 _II_.資料および方法埼玉県大滝村に位置する東京大学秩父演習林内の豆焼沢砂防堰堤右岸の土砂堆積地に4区画の植栽地を設けた。この場所に渓畔林の高木層を構成するシオジ、カツラ、ケヤキの植栽と、亜高木層および低木層を構成するバッコヤナギの挿木、フサザクラ、フジウツギの播種を行った。今回行ったシカ対策は植栽木を1本毎に囲うタイプのもので、東工コーセンのネット式のラクトロン幼齢木ネット(以下、ラクトロンという。)、樹皮ガード式のデュポン・ザバーン樹皮ガード(以下、ザバーンという。)とA社チューブ式の3種類を用いた。各区画内とも3種類のシカ対策を行った樹木(シカ対策木)と行わない樹木(対象木)をランダムに配置した。_III_.結果と考察被害レベルの分布によるシカ対策の違いを図-1、2に示す。被害レベルとは、シカが植栽木に与えた食害の状態を示すものであり、以下の4段階に分けた。レベル0は植栽木の芯、枝葉ともに食害無し、レベル1は一部の枝葉に食害を受けている、レベル2は芯食害や折れは無いが全体の枝葉に食害を受けている、レベル3は芯食害ならびに全体の枝葉が著しく食害されている、と定義した。2002年4月の植栽時、シカ対策は標準的な高さの130cm_から_150cm程度のものを用いたが、直後にネット等から露出している部位を食害され、すべてのシカ対策木にレベル1_から_3の被害が発生した。食害された部位の高さを測定したところ平均で143cmであった。そこで2002年6月に樹皮ガード式、A社チューブ式、は180cm程度になるように付け足し、ネット式は200cmのものに交換した。その結果、2002年6月以降シカの食害が減少した。2002年と2003年のシカ対策別の年間平均成長量を表-1に示す。2002年はラクトロン-2.2cm、ザバーン-15.7cm 、A社チューブ式-2.7cmと減少しており当初の食害の影響を受けたものと考えられる。一方、対象木は-52.8cmと大きく食害を受けている。2003年はラクトロン22.7cm、ザバーン-2.4cm 、A社チューブ式3.6cmで成長の回復がみられ、対象木はほとんどが枯死して残った3個体の平均成長量は4.3cmであった。ラクトロンとA社チューブ式は植栽木の梢端まで囲う場合が多いので食害が抑えられる割合が高くなっている。しかし、ラクトロンでは伸長枝がネットの中で丸まったり、A社チューブ式ではチューブ内の梢端枯れが発生した。ザバーンは本来樹皮をガードするものなので、今回のような広葉樹幼齢木のすべて枝葉を囲うのは困難かつ成長に与える影響が懸念されるため、ラクトンやA社チューブ式と比較すると食害が多く発生すると考えられる。_IV_.まとめ無防備な対象木は食害の割合が高くほとんどが枯死した。それに対してラクトロン、ザバーン、A社チューブ式はともに枯死木はなく概ね順調に成長をしている。これらのことからシカ対策は有効であったと言える。謝辞本実験の植栽は森林ボランティア団体「瀬音の森」(せおとのもり)の協力を得た。ここに記して、謝意を表する。
著者
矢竹 一穂 秋田 毅 中町 信孝 本間 拓也 前田 重紀 水越 利春 河西 司 阿部 學
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第115回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.P3053, 2004 (Released:2004-03-17)
参考文献数
2

新潟県十日町市珠川の林地、開放地、道路が混在し、連続した林分と分断・孤立した林分が分布する地域におけるリスの分布と林分の利用状況について、給餌台の利用状況調査とテレメトリー法により調査した。発信機を装着した4個体の夏_から_秋季の行動圏には1)連続した林分を利用、2)分断・孤立林分内で完結、3)複数の分断・孤立した林分間を移動して、利用する3タイプがみられた。車道上の轢死事例があり、孤立林分間の移動の延長として、今後も道路横断の可能性が考えられる。