著者
大村 和也 澤田 晴雄 千嶋 武 五十嵐 勇治 斉藤 俊浩 井上 敬浩
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第115回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.P3032, 2004 (Released:2004-03-17)

渓畔林再生実験におけるシカ食害対策○大村和也・澤田晴雄・五十嵐勇治・齋藤俊浩・千嶋武(東大秩父演)、井上敬浩(東工コーセン(株)) _I_.はじめに 東京大学秩父演習林では人工構造物等の布設により失われた渓畔林を再生する実験を行っており2001年に自生種の植栽を試みた。しかし、ニホンジカ(以下、シカという。)の著しい食害を受け植栽木の大部分が枯損する結果となった。そこで、2002年にシカ対策を施したうえで再度植栽を行い、その後の成長経過を調査してきた。本報では2002年から2003年にかけての調査結果にについて報告する。なお、本研究は東工コーセン株式会社(以下、東工コーセンという。)との共同研究として行われた。 _II_.資料および方法埼玉県大滝村に位置する東京大学秩父演習林内の豆焼沢砂防堰堤右岸の土砂堆積地に4区画の植栽地を設けた。この場所に渓畔林の高木層を構成するシオジ、カツラ、ケヤキの植栽と、亜高木層および低木層を構成するバッコヤナギの挿木、フサザクラ、フジウツギの播種を行った。今回行ったシカ対策は植栽木を1本毎に囲うタイプのもので、東工コーセンのネット式のラクトロン幼齢木ネット(以下、ラクトロンという。)、樹皮ガード式のデュポン・ザバーン樹皮ガード(以下、ザバーンという。)とA社チューブ式の3種類を用いた。各区画内とも3種類のシカ対策を行った樹木(シカ対策木)と行わない樹木(対象木)をランダムに配置した。_III_.結果と考察被害レベルの分布によるシカ対策の違いを図-1、2に示す。被害レベルとは、シカが植栽木に与えた食害の状態を示すものであり、以下の4段階に分けた。レベル0は植栽木の芯、枝葉ともに食害無し、レベル1は一部の枝葉に食害を受けている、レベル2は芯食害や折れは無いが全体の枝葉に食害を受けている、レベル3は芯食害ならびに全体の枝葉が著しく食害されている、と定義した。2002年4月の植栽時、シカ対策は標準的な高さの130cm_から_150cm程度のものを用いたが、直後にネット等から露出している部位を食害され、すべてのシカ対策木にレベル1_から_3の被害が発生した。食害された部位の高さを測定したところ平均で143cmであった。そこで2002年6月に樹皮ガード式、A社チューブ式、は180cm程度になるように付け足し、ネット式は200cmのものに交換した。その結果、2002年6月以降シカの食害が減少した。2002年と2003年のシカ対策別の年間平均成長量を表-1に示す。2002年はラクトロン-2.2cm、ザバーン-15.7cm 、A社チューブ式-2.7cmと減少しており当初の食害の影響を受けたものと考えられる。一方、対象木は-52.8cmと大きく食害を受けている。2003年はラクトロン22.7cm、ザバーン-2.4cm 、A社チューブ式3.6cmで成長の回復がみられ、対象木はほとんどが枯死して残った3個体の平均成長量は4.3cmであった。ラクトロンとA社チューブ式は植栽木の梢端まで囲う場合が多いので食害が抑えられる割合が高くなっている。しかし、ラクトロンでは伸長枝がネットの中で丸まったり、A社チューブ式ではチューブ内の梢端枯れが発生した。ザバーンは本来樹皮をガードするものなので、今回のような広葉樹幼齢木のすべて枝葉を囲うのは困難かつ成長に与える影響が懸念されるため、ラクトンやA社チューブ式と比較すると食害が多く発生すると考えられる。_IV_.まとめ無防備な対象木は食害の割合が高くほとんどが枯死した。それに対してラクトロン、ザバーン、A社チューブ式はともに枯死木はなく概ね順調に成長をしている。これらのことからシカ対策は有効であったと言える。謝辞本実験の植栽は森林ボランティア団体「瀬音の森」(せおとのもり)の協力を得た。ここに記して、謝意を表する。
著者
金谷 整一 中村 克典 秋庭 満輝 寺川 眞理 池亀 寛治 長野 広美 浦辺 菜穂子 浦辺 誠 大山 末広 小柳 剛 長野 大樹 野口 悦士 手塚 賢至 手塚 田津子 川上 哲也 木下 大然 斉藤 俊浩 吉田 明夫 吉村 充史 吉村 加代子 平山 未来 山口 恵美 稲本 龍生 穴井 隆文 坂本 法博 古市 康廣
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 = Japanese journal of conservation ecology (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.77-84, 2005-06-30
参考文献数
24
被引用文献数
3

2003年9月に種子島の木成国有林で確認されたヤクタネゴヨウの新群生地において, 2004年1月に調査を行った結果, ヤクタネゴヨウ13個体とクロマツ7個体の枯死が確認された.これらのうち, 材片を採取したヤクタネゴヨウ10個体のうち7個体からと, クロマツ7個体のうち6個体からマツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウが検出された.このまま枯死したヤクタネゴヨウとクロマツを放置すると, 今後, マツ材線虫病被害が拡大すると予測されることから, すべての枯死木を伐倒し約50cmの丸太に玉切りし, 直径1cm以上の枝とともに個体群外へ搬出した.搬出した丸太と枝は, 焼物製作のための薪として焼却した.今回の活動を踏まえ, 今後のヤクタネゴヨウ自生地保全にむけたマツ材線虫病被害木のモニタリングから処理の一連の作業手順を提案した.
著者
梶 幹男 沢田 晴雄 斉藤 俊浩 斉藤 登 中山 勇 赤岩 朋敏 伊藤 幸也
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.85, pp.p49-66, 1991-07
被引用文献数
1

1989年2月25日から26日にかけて東京大学秩父演習林栃本作業所管内の森林に大きな雨氷害が発生し,人工造林地での被害は本数18,931本,材積3,711m3,面積は23.6haに及んだ。しかも被害の発生した標高域はほぼ900~1,450mの範囲に限られていた。そこで雨氷現出の原因となったと思われる要因解析を行った。まず滑沢(標高1,150m),突出峠(1,650m)両地点の自記々録を比較した結果,この頃ここに明かな気温の逆転を生じていたことが判明した。しかも同じ時間帯に少し下方の栃本観測所(標高770m)で34.5mmの降雨が記録されていた。従って,雨氷害発生の経過についてこの時のこの雨が冷たい気層の中を落下する間に十分に冷やされて過冷却状態になり,それが枝,葉に当って瞬時に氷結し,着氷量を増加させていった。そしてこの着氷の荷重によって幹や枝が損傷を受け,雨氷後の強風がその被害を一層大きくしたものと推定された。また造林樹種のうち,カラマツが本数,材積ともに最も大きな被害を受け,総被害量の76%を占めた。被害形態を樹冠部の折損,幹の傾斜・湾曲,主幹の折れ,根倒れの四つに区分し,樹種別の被害率を求めた結果,樹冠部の折損はヒノキ,幹の傾斜・湾曲はカラマツ,主幹の折れは二葉松類,根倒れはスギでそれぞれ最も高い値を示した。そこで,カラマツ,スギ,ヒノキのそれぞれについて,雨氷害と地況および林況要因との関係を明かにするため,数量化I類による多変量解析を行った。解析に用いた七つのアイテムのうち,六つには樹種間で一定の傾向は認められなかったが,標高のみで,3樹種とも1,100~1,200mの範囲を中心に高いスコア値が認められた。このことは,今回の雨氷害の中心がこの標高域にあり,そこで着氷量が最も多かったことを示唆するものである。The glaze occurred at various places in Kanto from the 25th. to the 26th. in February, 1989 gave heavy damages to the manmade forests in Tochimoto District of the Tokyo University Forests in Chichibu, totals of 18,931 in the number, of 3,711m3 in the stem volume and of 23.6ha in the area (Table 2, 3). And most of these damages were found in restricted altitude ranges from 900 to 1,450m a.s.l.. For the purpose to search out main factors having caused these glaze damages, various analyses were carried out. The comparison of the temperature records taken from Namesawa (1,150m a.s.l.) and Tsundashitouge (1,650m a.s.l.) during the period concerned obviously clarified that the invasion of temperature occurred between these two altitudes (Fig.1). On the other hand, the rainfall of 34.5mm was recorded at Tochimoto observatory (770m a.s.l.) during the same period (Fig.3). It can be supposed from these two facts that the rain water was cooled to the over-cooled condition fallen passing through cold atmospheric layer below, and consequently it was frozen and turned to ice as soon as it dropped on branches and leaves, and fixed and accumulated on them. Therefore, stems and branches were broken by the heavy load of ice, and furthermore the damages were enlarged by strong wind blown after the glaze (Table 1). Among the manmade forests of different species, stands of Japanese larch (Larix kaempferi) were nost severely damaged showing 76 per cent of the total damage both in the number and the stem volume. Having classified the damages of stand trees into four types, i.e., crown breakage, stem leaning, stem breakage and up rooting and surveyed the degrees of damage of every tree species, it was known that the percentage of crown breakage was the highest in the stands of hinoki cypress (Chamaecyparis obtusa), that of stem leaning in Japanese larch, that of stem breakage in the species of hard pines, and that of up rooting in cryptomeria (Cryptomeria japonica), respectively. For the purpose of analysis of causal relations between the degree of glaze damage and the factors of topographical and or stand conditions, several stands of Japanese larch, cryptomeria and hinoki cypress were subjected to quantification analysis Quant-1, for which five items for topographical factors and two items for stand conditions were selected (Table 6-8). Among the seven items, six did not present any obvious relation among the stands. But a category of 1,100-1,200m in the item of altitude alone was significantly related to the occurrence of glaze damage in the stands of every species. This fact suggests that the amount of ice deposition was the largest in this range of altitude which caused heavy damages.