著者
二瓶 直子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第64回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.36, 2012 (Released:2014-12-26)

日本における日本住血吸虫症の主要な分布地域は山梨県,広島県(片山地方 ),福岡県・佐賀県の3か所で,そのほか関東平野,静岡県海岸平野に限られていた.その分布の偏在性を規定するのはミヤイリガイOncomelania nosophoraで,これは約7-8mmの小巻貝で形態的地域差は顕著ではない.演者らは,その分布規定要因を現地調査・既往資料・飼育実験を実施して明らかにしてきた.地形的には洪水時に湛水期間の長い低湿地で,土壌条件として灰色低地土,砂壌土,腐植含量2-3%などで,水環境としては常時湿潤状態が保持され,特定の化学性を有する.これらの結果からミヤイリガイの生息に適した地域,換言すれば危険地域の環境を明らかにしてきた.日本ではミヤイリガイ発見直後から数々の直接的・間接的撲滅対策が実施されてきた.その結果,国内では最後に甲府盆地で 1996年に安全宣言が出され,日本の住血吸虫症は終息したとされた.しかしミヤイリガイは甲府盆地では未だに生息していることから,この地域の生息状況の監視は重要である.そこで甲府盆地については 1960年代末と2000年頃の密度分布図をもとに,地理情報システムを用いて,その分布範囲や生息密度の変化を明らかにした.日本の衛星画像から,水田を抽出し,危険地域の範囲や各種の地図を重ね合わせ,ミヤイリガイを監視すべき地域を抽出した.近年の環境変化を衛星画像で監視しながら,GPSを用いた現地調査を実施して,より効果的な監視体制を構築している.
著者
太田 伸生 熊谷 貴 陸 紹紅 汪 天平 温 礼永
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第64回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.37, 2012 (Released:2014-12-26)

中国では2020年までに日本住血吸虫症流行根絶を目指して施策が進められた結果,国内の流行は急速に減少し,2010年の新規感染者登録数は43例であった.中国国内の中間宿主貝Oncomelania hupensis hupensisは,主に揚子江水系に沿って繁殖地が存在し,日本住血吸虫症もそれに一致して分布する.流行地の地理的な特徴から,湖沼型,山丘型および水網型の区分があり,流行地の環境特性に応じてOncomelania貝にも多様性が見られる.住血吸虫症対策では中間宿主貝対策は決して主要戦略にはならないが,その動向をモニターしながら対策戦術を効率的に投入することは今後益々重要となる.そのためにヒトと中間宿主貝双方の感染状況を正確に把握することが必要で,様々な技術革新が検討されてきた.私たちは揚子江中流域,安徽省の流行地をモデルにして,流行状況把握の指標としての貝の感染率評価を簡便で精度高く把握することを目指して LAMP法の導入を図っている.これにより,生息する貝の感染状況をより正確に把握するシステムが構築されつつある.このシステムを対策現場に応用する上での問題点を整理し,中国の住血吸虫対策を如何に効率化するかが当面の課題である.現状を紹介して今後の指針を考察したい.
著者
角田 隆 Tran Chi Cuong Tran Duc Dong Nguyen Thi Yen Nguyen Hoang Le Tran Vu Phong 皆川 昇
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第64回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.50, 2012 (Released:2014-12-26)

ネッタイシマカとヒトスジシマカはデング熱の有力なベクターである.ベトナム国ハノイ市には毎年デング熱患者が発生し,ネッタイシマカとヒトスジシマカの両方が生息する.ハノイ市におけるデング熱患者発生の機構について明らかにするためには,これらの蚊の発生消長を調べる必要がある.2010年7月から2012年3月まで,ベトナム国ハノイ市内の8つの区に定点を設置してデング熱媒介蚊の調査を行った.毎月一回,各区から15軒の家をランダム抽出し,家の中と庭の人工容器に蚊の幼虫と蛹がいるか,確認した.蛹は実験室に持ち帰って,成虫になってから種を判別した.ヒトスジシマカは 9月から次第に減少し,冬期にはまったく採集されなくなった.一方,ネッタイシマカは冬期にも採集された.ハノイ市においてデング熱患者は 11月頃まで発生するため,ネッタイシマカが秋から冬にかけての患者発生に関与していると考えられた.まだ,デング熱患者は市の中心部の3つの区に毎年多く発生する傾向がある.これらの区ではネッタイシマカが優占する傾向が見られた.
著者
Fonzi Eugenio Minakawa Noboru
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第64回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.67, 2012 (Released:2014-12-26)

The insects of the subfamily Triatominae (Hemiptera, Reduviidae) are vectors of Trypanosoma cruzi, agent of Chagas disease, endemic in Latin America, but not recorded in the rest of the world. The increasing migration flows open the possibility for a spreading of T.cruzi in non-endemic countries. Autochtonous species of triatomine bugs are recorded in South-East Asia but data on their actual distribution and behaviour as a possible vector and/or pest are considerably lacking. Very outdated records of three species are the only available informations regarding the triatomine bugs in the Philippines. In order to confirm the alleged presence of the bug there, a preliminary field trip of one month was undertaken between December 2011 and January 2012. In Quezon City (the biggest municipality in Metro Manila) and in the outskirts of Tarlac City (Tarlac province), the local population was inquired about their awareness of the presence of the bug. A general knowledge both of the existence and the behaviour of the triatomine bugs was found, especially among the humble people; if inquired, they also frequently reported of big painful swellings on the skin after episodes of bites. Reportedly, the insect is mainly found inside the habitations and during nighttime. Through those connections was possible to collect a few specimen in Quezon City, all identified as Triatoma rubrofasciata. Quezon City is a highly urbanized area and the specimen were collected in the slums; old and sometimes miserable dwellings were the collection sites. This collection represents the first record of T.rubrofasciata in the Philippines since the '40s. According to this preliminary survey the triatomine bugs are likely to be widely distributed all over the country and frequently involved in episodes of human blood feeding.