著者
太田 伸生 熊谷 貴 陸 紹紅 汪 天平 温 礼永
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集 第64回日本衛生動物学会大会
巻号頁・発行日
pp.37, 2012 (Released:2014-12-26)

中国では2020年までに日本住血吸虫症流行根絶を目指して施策が進められた結果,国内の流行は急速に減少し,2010年の新規感染者登録数は43例であった.中国国内の中間宿主貝Oncomelania hupensis hupensisは,主に揚子江水系に沿って繁殖地が存在し,日本住血吸虫症もそれに一致して分布する.流行地の地理的な特徴から,湖沼型,山丘型および水網型の区分があり,流行地の環境特性に応じてOncomelania貝にも多様性が見られる.住血吸虫症対策では中間宿主貝対策は決して主要戦略にはならないが,その動向をモニターしながら対策戦術を効率的に投入することは今後益々重要となる.そのためにヒトと中間宿主貝双方の感染状況を正確に把握することが必要で,様々な技術革新が検討されてきた.私たちは揚子江中流域,安徽省の流行地をモデルにして,流行状況把握の指標としての貝の感染率評価を簡便で精度高く把握することを目指して LAMP法の導入を図っている.これにより,生息する貝の感染状況をより正確に把握するシステムが構築されつつある.このシステムを対策現場に応用する上での問題点を整理し,中国の住血吸虫対策を如何に効率化するかが当面の課題である.現状を紹介して今後の指針を考察したい.
著者
岡野 光博 西岡 慶子 永野 稔明 太田 伸生 増田 游
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.1179-1184, 1994
被引用文献数
5

春期花粉症患者を対象にヒノキ AlaSTAT検査を行い, 春期花粉症におけるヒノキ科花粉およびヒノキ特異的IgE抗体の臨床的意義について考察した. 1993年2月から4月に飛散した春期花粉は 1,802.8個/cm^2で, スギに対するヒノキの飛散割合は1 : 1.83に達した. アレルゲン特異的IgE抗体陽性率(スコア1以上)はスギが83.5%, ヒノキが80.0%であった. 76.4%がスギ・ヒノキの両者に陽性となり, 12.7%がスギにのみRAST陽性となった一方, 7.9%はヒノキに対してのみIgE抗体価が陽性であった. ヒノキAlaSTAT単独陽性患者群の臨床症候には平均罹病期間が短く, 重症度は中等症以下である傾向がみられた. ヒノキの優勢飛散期である4月に受診したものは, 3月以前の受診患者と比較して有意に高いヒノキAlaSTATスコアを呈した (p<0.05).
著者
太田 伸生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.102-103, 2018-01-15

文部科学省の学校保健安全法施行規則の改正によって,蟯虫の検査は2015年度で終了となった.誰もが思い出すセロファンテープ法による蟯虫検査であるが,今後,学童の記憶から徐々にフェードアウトしていく運命である.中央部が青色に着色されたセロファンテープを,起床時に肛門に当てて,肛門周囲に産卵された蟯虫卵を検出する方法を“テープ法”,“セロファンテープ法”,“スコッチテープ法”などと呼んでいた.法改正の後,私たちの業界でもいろいろなことが起こり,ここしばらくは混乱が続くであろう.というのも,このセロファンテープの供給が継続できないことになったからである. 蟯虫は別名pin warmとも呼ばれる体長1cm内外の腸管寄生線虫であり,虫卵を経口的に摂取して感染した後,成虫は腸管回盲部に定着寄生する.腸管粘膜侵入性もなく,宿主免疫応答も軽微であるため,感染者はほとんど自覚することはない.雌虫は宿主の夜間就眠中に肛門に出てきて産卵し,肛門周囲の違和感によって手指で触る際に虫卵で汚染され,それが再び経口感染するが,その他に感染者の衣類や手指の接触を介して他者に感染が及ぶこともある.そのような感染パターンのため,感染者は未就学児童や小学校低学年学童が多く,また,同居家族にも感染が及ぶ傾向がある.疫学的には住居内の1人当たりの専有面積と反比例するとされ,集合住宅居住者に多いなど,都市型寄生虫感染症である.セロファンテープ法であるが,ご承知の通り,2日連続検査が行われる.この方法に限らず,検便検査の感度は決して高くなく,蟯虫検査のセロファンテープ法でも,2日法では約半数が偽陰性となることが知られており,9割程度の診断効率を得るには5日連続検査が必要である.最近の都市部学童の蟯虫陽性率は0.3%前後であることからすると,日本国内では学童の200人に1人程度の感染者がいることになる.
著者
太田 伸生
出版者
医学書院
雑誌
臨床検査 (ISSN:04851420)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.770-771, 2017-06-15

世に金満家の話は珍しくないが,よい金持ちとイヤな金持ちがあるものだとは,私たち貧乏人のひがみも混じった感想である.ディケンズの『クリスマス・キャロル』に出てくるケチンボ経営者Scrooge氏がクリスマスの夜に幽霊に諭されてよい金持ちに変わる話には子ども心にも残った教訓である.よい金持ちというのはどんな人たちかと考えてみると,私財に固執せず,必要な場面で金離れよく寄付を惜しまないで,余計な口は挟まないのが理想の1つであろう.今回は,よい金持ちが1人の大寄生虫学者を育てた逸話を紹介したい. 私は母校の同窓会誌に時々,駄文を寄稿しているが,あるとき,山口左仲という寄生虫学者を紹介してみようと思った.基礎医学の人間は暇があることに加えて偏執狂の傾向があり,私も彼について資料を集め,また長野県の生家を訪ねて取材のまねごとまでやって山口左仲についての拙文を書き上げたのである.左仲という人は昭和20〜30年代にかけて活躍した寄生虫学者であり,地球上の動物の寄生虫をともかく調べまくって,詳細な図譜とともに寄生虫の大カタログを書き上げたすごい人である.たいがいの寄生虫は左仲の本に載っている.左仲は医者でありながら京都帝大の理学部で学位を取得した本格的な寄生虫学者であり,その記述はあくまでも科学的に精緻である.