著者
上村 朋子 本田 多美枝
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report = The Japanese Red Cross Kyushu International College of Nursing, intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.194-207, 2005-03-01

本稿では、「概念分析」の手法について概観し、それぞれの手法が生み出されてきた背景について論じた。「概念分析」は1960年代の看護理論の開発に伴い、その構成ブロックである「概念」を明らかにする必要性から、欧米を中心に探究が進められているものである。看護の分野で使用されている「概念分析」の手法は、高校生の概念分析スキルの向上を意図して導かれたウイルソンの方法から展開している。その主なものは、システマテイックな方法として評価され、先行研究において最も採用されているウォーカーとアーヴァントの方法、また時間や状況による概念の変化に着目したロジャーズの革新的方法、実践現場で概念がどのような意味で使用されているのかを重視したバイブリッド・モデル、さらには、いくつかの概念を多面的に分析する同時的概念分析などである。「概念分析」は、これまで曖昧に使用されてきた「概念」を明確にすることを通して、看護の現象に迫る方法を提示している。それぞれの手法の活用にあたっては、分析の目的に適した手法を選択して、クリティカルな思考を展開することが重要である。
著者
小手川 良江 本田 多美枝 平川 オリエ 本田 由美 寺門 とも子 八尋 万智子
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report = The Japanese Red Cross Kyushu International College of Nursing, intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.15-25, 2010-12-25

本研究の目的は看護師の「職業キャリア成熟」に影響する要因を明らかにすることである。看護師の「職業キャリア成熟」(27点〜135点)に、属性・経験年数・家族の支援・キャリア計画をたてるうえで影響の大きいライフイベント・役割モデルの有無・メンターの有無が影響していると考え、概念枠組みに基づき調査項目を設定した。設置主体が同じである二つの総合病院(A病院509床、B病院301床)に勤務する看護師を対象とし、無作為抽出により374名に調査用紙を配布した。調査は無記名自記式質問紙調査とし、郵送にて回収を行った。分析は記述統計量、t検定、一元配置分散分析、相関分析を行った。結果、「職業キャリア成熟」と経験年数に有意な差はなかった。しかし、全ての経験年数で他の下位尺度と比較して<職業キャリア計画性>が低かった。現在起こっているライフイベントの中でキャリア計画をたてるうえで影響が大きいものとしては、結婚61名(30.7%)、育児49名(24.6%)が多かったが、配偶関係や子どもの有無による「職業キャリア成熟」に有意差は認められなかった。しかし、家族の支援が高い群は有意に「職業キャリア成熟」が高く、家族の支援による影響が示唆された。また、役割モデルやメンターの存在がある群は、「職業キャリア成熟」が有意に高く、キャリア成熟の影響要因であることが示唆された。
著者
徳永 哲
出版者
日本赤十字九州国際看護大学
雑誌
日本赤十字九州国際看護大学intramural research report = The Japanese Red Cross Kyushu International College of Nursing, intramural research report (ISSN:13478877)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.31-41, 2010-03-31

19 世紀に入って、リバプールは造船・港湾都市として急成長し、世紀中頃には、ロンドンに次ぐ国際貿易の拠点として栄えた。その繁栄の半面、アイルランドの大飢饉を逃れた難民が流れこんできた。彼らは地下室や袋小路の共同住宅に住み、劣悪な環境の中で悲惨な生活を送った。政治家であり資産家でもあったウィリアム・ラスボーンは貧民の救済に尽力した。彼は看護を専門職とする看護師を育成し、貧民家庭の病人を訪問させることを考えた。そのためのアドバイスをナイチンゲールに仰ぎ、指示に従って王立リバプール病院に看護師養成学校と看護師宿舎を創設した。さらに、彼は救貧院施療病院看護体制の改革にのりだし、ナイチンゲールの助力を得て、聖トマス病院ナイチンゲール学校の優秀な卒業生アグネス・ジョーンズを看護師長に迎えることができた。ナイチンゲールの最愛の教え子アグネスは貧民の看護に献身的に尽くし、人道の模範を示した。ナイチンゲール、ラスボーン、アグネスこの3 人を結び合わせたものは友愛と平等であり、貧民救済への熱意であった。その力は堕落した病院の看護体制を刷新したばかりでなく、貧困と退廃に満ちた社会に希望をもたらしたのである。看護が社会を向上させることのできた稀に見る例であった。