- 著者
-
梶谷 文彦
- 出版者
- 一般社団法人 日本集中治療医学会
- 雑誌
- 日本集中治療医学会雑誌 = Journal of the Japanese Society of Intensive Care Medicine (ISSN:13407988)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.2, pp.83-90, 2003-04-01
- 参考文献数
- 11
20世紀になって医学・医療は理工学領域で開発された技術を導入し,めざましい発展を遂げた。その嚆矢が,今から約100年前のアイントーフェンによる絃線心電図の開発であり,これはまさに,医用工学の源泉ともいえるものである。日本でも1930年代に,故武見太郎先生(後の日本医師会長)は,理化学研究所の理工学者たちと,高性能の絃線電流型式心電計を開発し,ドイツへ輸出していたという。医用工学が大きく発展したのは20世紀後半であるが,その直接の動機づけは,第二次世界大戦中の電子・通信工学の大きな進歩であった。その技術を医学・医療分野に利用しようという機運が生じ,日本でも医用工学の研究活動が始まった。端的に言うと1940~60年代には人工透析や人工心肺などの治療機器の発展と種々のモニターを含む電子計測機器の発展が特に目につく。1970年代はまさに医用画像の10年である。X線CT,MR-CT,ポジトロンCTいずれもこの間に集中しており,これによって医学の教科書はその内容が一新した。1980年代は,医用工学機器の円熟期であり,今日病院でみられる機器のほとんどは,この時期に完成ないし実用化に向かったといえる。1990年以後においては,分子生物学の進歩が著しく,ゲノムや再生医学などの展開に目を見張るものがある。いまや医学・医療の分野は,周辺科学と近代技術の支援なくしては成立し得ない状況にあり,なかでも分子生物学と医用工学は車の両輪の関係にあるといっても過言ではない時代となっている。