著者
大谷 典生 浅野 直 望月 俊明 椎野 泰和 青木 光広 石松 伸一
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.12, pp.636-640, 2004-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
11
被引用文献数
3 3

A case report of histamine (Scombrotoxin) poisoning is presented. Five to ninety minutes after eating cooked swordfish, 30 persons reported feverishness, diarrhea, palpitations, headache, nausea, dyspnea, generalized urticaria, angioedema, and shock. Of these, 13 persons were admitted to Saint Luke's International Hospital. The patients were given intravenous hydration, IV Hl-blocker, and subcutaneous epinephrine as needed. However, 4 patients required continuous administration of epinephrine intravenously for resolution of the anaphylactic shock. These patients required observation in our intensive care unit. On the following day, all the patients were well and ready for discharge from the hospital. There were no symptoms at the time of discharge. Quantitative determination of the plasma concentration of histamine at the time of admission revealed a value of 0.85-43.10ng/ml. Some pieces of the offending tuna were sent for analysis, and 670mg histamine per 100g of the fresh tuna and 750mg histamine per 100g of the cooked tuna were detected. Generally speaking, histamine poisoning is associated with only mild allergic symptoms. However, in this case, some people developed shock and required close observation. This experience suggests that histamine poisoning can be associated with an outbreak of anaphylactic shock and serves as a cautionary example for emergency medical staff.
著者
石松 伸一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.193, 2011 (Released:2011-08-11)

【はじめに】1995年3月20日朝、発生した地下鉄サリン事件では死者13名、傷病者6000名を超えるテロ事件であった。当院では当日だけで640名、その後1週間で1200名以上の傷病者が来院した。初期に見られた中毒症状も次第に軽減し、消失するものと思われたが、1年以上を経過しても症状の残存する事例を多数経験したので、継続的に症状の追跡調査を開始した。 【方法】事件後5年間は、当院を初診した被害者にアンケート用紙を郵送して記入後返信してもらった。6年以降は同様に被害者のケアを行なっていたNPO法人リカバリーサポートセンター(RSC)とともに調査を行ない、希望者には検診を実施した。症状アンケートは事件後、被害者の訴えの多かった33種類の症状について重症度を1〜5までのリカートスケールを用いた。なお重症度の3〜5と回答したものを「症状あり」とした。 【結果】後遺症と認定されている眼症状、PTSDをはじめとする精神症状以外での身体症状では、「体がだるい」1年後7.3%、5年後16.0%、10年後43.4%、「体が疲れやすい」は1年後11.9%、5年後23.1%、10年後56.3%、「頭痛」は1年後8.6%、5年後12.5%、10年後44.7%、「下痢をしやすい」は1年後1.0%、5年後11.9%、10年後18.6%。なお、アンケート調査開始時には項目になかった症状のうち「手足のしびれ」は13年後の時点で49.8%と実に半数近くが症状を訴えていた。また受傷時未成年であった被害者への小児科による追跡調査では身体症状は遅発的に発生しており、精神健康度、不安尺度ともに正常域であった。 【考察】多くの身体症状で経年的に訴える頻度が増加していたことは、年齢の変化以外にアンケート回答者の特異性などの因子も関連していると思われるが、有機リン系毒物の遅発的障害に関しても否定できない。
著者
三谷 英範 望月 俊明 大谷 典生 三上 哲 田中 裕之 今野 健一郎 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.11, pp.833-838, 2014-11-15 (Released:2015-03-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1

はじめに:尿素サイクル異常症であるornithine transcarbamylase(OTC)欠損症の頻度は日本で14,000人に1人とされ,18歳以降での発症例は稀であるが,発症すると重症化しうる疾患である。我々は,19歳発症のOTC欠損症により高アンモニア血症・痙攣重積発作を来し,救命し得なかった1例を経験した。症例:19歳の男性。来院前日,嘔吐・下痢・全身倦怠感を主訴に救急要請した。前医に搬送され,血液検査や頭部CTでは異常を認めないものの,全身倦怠感が強く入院加療を行うこととなった。入院後,不穏状態に続いて強直性痙攣が出現した。ジアゼパム静注で痙攣は消失したが,その後意識レベル改善なく当院へ紹介転院となった。当院来院時,頭部CTで全般性に浮腫性変化認め,血中アンモニア濃度は500µg/dL以上であった。当院入院後,痙攣再燃したため鎮静薬・抗てんかん薬を増量しつつ管理するも,痙攣は出現と消失を繰り返した。血中アンモニア濃度は低下傾向であったため透析の導入は見送った。第2病日に瞳孔散大,第4病日に脳波はほぼ平坦となり,脳幹反射は消失した。その後も高アンモニア血症は持続し,代謝異常による痙攣も疑われたため,各種検査を施行しつつ全身管理に努めたが,第11病日に血圧維持困難となり死亡した。後日,血中・尿中アミノ酸分画やオロト酸の結果からOTC欠損症と診断された。考察:尿素サイクル異常症は稀であるが,高アンモニア血症を来している場合には迅速に対応しなければ不可逆的な神経障害を来す。治療には透析が考慮されるが,本症例では痙攣が軽減した後血中アンモニア濃度は低下傾向であったため透析は施行しなかった。結語:血糖正常,アニオンギャップ正常の高アンモニア血症では尿素サイクル異常症を鑑別に挙げ,透析を早期に検討する必要がある。
著者
大谷 典生 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 = Journal of the Japanese Society of Intensive Care Medicine (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.171-176, 2007-04-01
参考文献数
6
被引用文献数
2 3

目的 : 当院救急部での末期医療の現状を明らかにし, その問題点を探る。方法 : 2004年4月~2005年3月の期間に当院救命救急センターで死亡転帰をとった患者の診療録よりデータ収集を行った。結果 : 対象は61例。発病前より自身の治療方針に関する意思表示があったのは5例。回復困難の説明時, 34例の家族は積極的治療の継続を希望していた。全例, 担当医と家族との話し合いで治療方針を決定していたが, 最終的に47例で “do not attempt resuscitation (DNAR)” の決定があった。倫理カンファレンスの介入はなかった。DNAR決定後, 一部治療で差し控えもしくは中断が行われていた。結論 : 末期医療は事例ごとに, あり方が異なるが, (1) 本人の意思確認が不能の際の治療方針決定方法, (2) 回復困難の判定方法, (3) DNAR決定後に許容される治療内容の変更範囲に関するガイドラインの作成が必要である。
著者
望月 俊明 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本脳卒中学会
雑誌
脳卒中 (ISSN:09120726)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.217-221, 2009 (Released:2009-08-14)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

【背景と目的】本邦の若年性脳卒中は虚血を原因とするものが最も多い.本研究では若年性脳梗塞のデータを示し,診療上の問題点を検討する.【対象と方法】対象は3年間に当施設に入院した50歳以下の脳梗塞26例とした.これらを病型分類し,施行検査,入院期間,転帰を示す.【結果】50歳以下の脳梗塞は全体の9.8%で,病型分類では,1.lacunar 7例(27%),2.atherothrombotic 5例(19%),3.cardioembolic 3例(12%),4.other 6例(23%),5.undetermined 5例(19%)だった.otherの内訳は,脳動脈解離が3例,卵円孔開存,大動脈解離,腫瘍に伴う塞栓がそれぞれ1例ずつだった.入院期間は平均15日,転帰は,ADL自立退院例が14例(54%),死亡例は1例だった.【結語】45歳以下発症の脳梗塞は脳血管異常,特に脳動脈解離に起因する頻度が高い.若年性脳梗塞では,脳血管病変の精査が必要であり,早期血栓溶解療法を行う際は十分な注意が必要である,
著者
本間 洋輔 望月 俊明 大谷 典生 青木 光広 草川 功 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.273-277, 2012-06-15 (Released:2012-08-11)
参考文献数
13

Zolpidem(マイスリー®)の過量服用による急性薬物中毒の母体から出生した児が急性薬物中毒よる無呼吸状態であった1例を経験したので報告する。症例は35歳の女性。公園内で意識障害の状態で倒れていたところを発見される。周囲に薬包が散乱していたため,急性薬物中毒疑いにて当院へ搬送された。来院時意識レベルJCS200。腹部膨満を認め,腹部エコーにて子宮内に心拍を伴う胎児を認めた。その時点で妊娠37週であること,出産の徴候が認められたためパニックとなり行方不明となっていたことが発覚した。産婦人科診察にて分娩の進行が確認されたが,意識障害が遷延していたため,緊急帝王切開を施行することとなった。出産児は男児,体重2,572gでapgar scoreは1分後4点,5分後4点であった。児は自発呼吸を認めず気管挿管下の人工呼吸管理を要した。日齢1には自発呼吸認めたため抜管,その後は薬物離脱症状や合併症を認めることなく日齢22に退院となった。母親(本人)は入院2日目に意識レベルが回復し,とくに合併症なく経過した。精神科診察にてうつの診断となり,自殺企図を伴ううつの治療目的に転院となった。後日,分娩当日の母・児の血液よりZolpidemが異常高値で検出され,母児の意識障害の原因としてZolpidem中毒の診断が確定した。うつによる薬物過量服用はよくみられるが,妊婦が薬物を過量服用し,そのまま分娩を迎える例は稀である。Zolpidemは妊婦に比較的安全とされているが,本報告のように過量服用の場合には胎児に影響がでることがある。そして母体で中毒症状が出現している場合は,児ではそれ以上の中毒症状がでる場合があると想定するべきであり,妊婦の薬物過量服用の場合は常に胎児への影響について考えるべきである。また妊娠可能な年齢の女性の意識障害で詳細不明な場合,常に妊娠の合併について考えるべきである。