著者
吉澤 和徳
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲(ニューシリーズ) (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.112-120, 2016-07-05

はじめに : 咀顎目Psocodea(図1)はかつての独立目,噛虫(チャタテムシ) 目Psocoptera (図1),食毛(ハジラミ) 目Mallophaga,虱(シラミ) 目Anoplura からなる分類群である.側系統群Mallophaga をAnoplura とあわせてシラミ類Phthiraptera とし,さらにこれを内包する側系統群Psocoptera もあわせてPsocodea として扱う体系が最近一般的になった.和名もなじみが薄いと思われるが,咀顎類(上目) の名称は山崎(2000) が,片仮名目名の需要に応えたカジリムシ目の名称は吉澤(2012) が初出である.筆者がチャタテムシ類の研究を開始した当初,咀顎目は体系学的研究がかなり遅れた目とみなされていた.しかし咀顎目での寄生性の起源解明などで研究が加速し,現在は高次系統の全体像がおおよそつかめるに至っている(図2).さらに雌ペニスの発見や(Yoshizawa et al., 2014b; 吉澤, 2015),ゲノム系統解析で咀顎目が完全変態昆虫の姉妹群に位置づけられたこともあり(Misof et al., 2014: この解釈については下記も参照のこと),かつてのマイナー目は広く注目を集める存在となった(Yoshizawa, 2015).本稿では,咀顎目の位置づけと目内の系統関係の理解の現状を解説する.紙面の都合もあり下目以上の高次関係を主に扱う.より低次の関係や,科の単系統性などの議論は,引用論文および図2を参照されたい.上述の通りチャタテムシとシラミという区分は現在の分類体系では一般に認められないが,便宜上これらを分けて解説する.