著者
大塚 悠 鈴木 宏易 赤川 泉
出版者
東海大学海洋学部
雑誌
海-自然と文化 = Journal of the School of Marine Science and Technology : 東海大学紀要海洋学部 (ISSN:13487620)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.11-22, 2009

松島湾アマモ場におけるサンゴタツHippocampus mohnikeiの成魚の採集時間あたりの採集個体数(CPUE)は、2006年5〜7月は4.6-5.3で、8月に8.4に増加し、9月以降急減した。繁殖場のアマモが9月以降枯れていくために分散していると考えられる。大型の成魚は前年に産まれた個体、9〜11月にかけて採集された未成魚は、当歳魚であると推測される。成魚の雌雄の体長に有意差は見られなかった(雌、62.9±6.7mm SL;雄、66.2±8.9mm SL)。採集された全個体の性比は有意に雌に偏っており、月別では6、7月に有意に雌に偏っていた(雌/(雌+雄)6月、78.9;7月、81.3)。生殖腺の組織学的な観察では、卵巣と精巣は共に体腔背壁より伸展する生殖腺間膜によって垂下する左右一対の器官で、卵巣はのう状、精巣は管状であった。卵巣はロール状を呈する特徴的な卵巣薄板を有し、その内部には基部付近に卵原細胞が存在し、薄板の先端部に向かって卵母細胞が成長順に分布していた。精巣は肥厚した被膜で覆われ、内部には精小のうが存在していた。精巣被膜壁に沿って精原細胞が位置し、精巣内腔に向かって順次精母細胞が分布しており、内腔内には遊離した精細胞や精子が観察された。雄では5〜11月のすべての成魚で精子が観察された。卵巣では、5月末に採集された雌で既に成熟期卵母細胞が観察された。6月末にはさらに増加しており、8月末に最も成熟期卵母細胞の割合が高くなった。したがって、2006年の松島湾における本種の繁殖期は5〜9月までの5ヶ月続いていると示唆された。
著者
Aydan Omer
出版者
東海大学海洋学部
雑誌
海-自然と文化 = Journal of the School of Marine Science and Technology : 東海大学紀要海洋学部 (ISSN:13487620)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.19-38, 2008
被引用文献数
1

2004年12月26日のスマトラ沖大地震以来大きな災害をもたらした6つの大地震がインドネシアに発生した.2004年アチェー地震 (スマトラ沖地震) はこの世紀の強大地震の一つであり, その地震に伴って発生した強大津波によって20万人以上の犠牲が出た.インドネシアは3つのプレートが存在する地域に位置している.インドネシアを含む東南アジアの各国はGPS 観測網を設置している.リアルタイムGPS 観測は地震ハザード評価に関して大変重要であるが, これらのGPS観測網の大半はリアルタイムに地殻の変形を観測していない.著者はトルコ, 台湾や日本におけるGPS 観測網よりの観測データを用いて地震の危険性の高い地域とその時期の推定などについての研究を進めてきている.GPS 観測結果の評価と解釈について開発した手法を用いて地震が発生する地域の同定と発生時期の推定が可能であることを明らかにしている.本論文で開発した手法を用いてスマトラ島に重点を置きながらインドネシアにおける地殻のひずみ・応力変化を求め, その地震活動との関係や地震発生の危険性が高い地域について検討を行っている.また, スマトラ島沖およびスマトラ島内の内陸型地震の可能性を検討し, 近い将来発生する可能性が高いM8.7クラスの発生地域とその地震動を推定している.さらに, 地震とその津波災害を低減するため予防防災の観点から構造物の耐震補強と津波対策について提言している.
著者
五十嵐 博
出版者
東海大学海洋学部
雑誌
海-自然と文化 = Journal of the School of Marine Science and Technology : 東海大学紀要海洋学部 (ISSN:13487620)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.39-54, 2008

本稿は, メルヴィルの第3作『マーディ』の構成, プロット, および登場人物たちを分析し, 作品に宿されている寓意的・象徴的意味を解明しようとするものである.プロットは神秘的で謎めいており, この寓意ロマンスに隠れた意味があることを暗示している.プロットの本流で発生する3つの出来事, すなわち主人公と純真無垢なイラーの出会い, イラーの失踪, そしてイラーを再発見し取り戻すための長旅が, 作品構成の言わば竜骨を形成している.失われた純潔と純真無垢の探求はマーディ中で行われるが徒労に終わり, マーディは罪悪多き現実の人間世界の縮図となっている.登場人物たちはメルヴィルの代理人もしくは分身として見て取ることができる.主人公のタジはメルヴィルの本能を, ババランジャは理性を代弁し, 復讐者たちは罪の意識を, ホーシャの使者たちは性の誘惑を意味している.イラーは純真無垢,善,理想の象徴で, ホーシャは罪の歓び, 悪, 人間の現実を象徴している.