著者
片岡 弥恵子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
看護薬理学カンファレンス
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.S2-1, 2021

<p>ドメスティック・バイオレンス(DomesticViolence:DV)とは、親密な関係における暴力である。男性から女性への暴力が多く、夫、元夫、婚約者、元婚約者、恋人、元恋人などが加害者となる。DVには、身体的暴力、精神的暴力、経済的暴力、性的暴力などがあり、様々な暴力が重複して起こっている場合も少なくない。これらの暴力の根本には、パワーとコントロール(力と支配)が存在する。加害者は、自分の意のままにコントロールする手段として暴力を使うことが知られている。</p><p> 内閣府男女共同参画局の全国無作為抽出調査(2017)によると約20%の成人女性がこれまでにパートナーから身体に対する暴行を受けたことがある、17%が心理的攻撃を受けたことがある、約10%が経済的圧迫を受けたことがある、約10%がパートナーから性的な行為を強要されたことがあると回答している。いずれかのDV行為を一つでも受けたことがあるのは成人女性の約3人に1人であり、約7人に1人は何度も受けていると回答していた。また、交際相手からのDVの経験では、約21%の女性が被害を受けたことがあったと回答している。このようにDVは、決して稀なことではなく、私たちの身近に存在する問題である。</p><p> DVは、女性や子どもの健康に深刻な影響を及ぼすことが多くの研究で報告されている。周産期においては、母親の外傷、切迫流産・早産(腹部を蹴られる)、精神面ではうつ症状や不安、PTSD、低出生体重児、胎児機能不全など胎児への影響もある。さらに、DVは、子どもの虐待と強い関連が認められている。周産期にできるだけ早期にDVを把握し、支援を始めることは特に重要であると考えられている。</p>
著者
礒濱 洋一郎
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
看護薬理学カンファレンス
巻号頁・発行日
vol.2020, pp.ES-1, 2020

<p>ドラッグリポジショニング(DR)とは、既に臨床応用されている既存薬の中から</p><p>新たな効能を見出し、実用化に繋げようとする研究戦略である。例えば、古くか ら抗炎症薬として使われてきたアスピリンが、現在では抗血小板薬として応用さ れているのは典型的な例であり、近年では、多くの既存医薬品に新たな薬理作 用が見出されてきている。このようなDR の拡大は、従来、我々が理解している 薬物の作用やその機序が、実は一面に過ぎず、既存薬の中にも大きな可能性 が秘められていることを意味していよう。一方、DR 戦略によって見出された新 作用も、適用拡大には剤形の変更を必要となり実用化に至らないものなどもあり、 課題は多い。我々は、DR のこのような課題を鑑み、多彩な薬理作用を持つ漢 方薬に着目した研究を行っている。漢方薬は古くから疾患名に応じた適用ではな く、症状や症候の治療を目的とする傾向にあり、新作用を見いだした際の使用 拡大が比較的容易である。</p><p>これまでに、アクアポリン(AQP)水チャネルの機能調節を創薬標的とした基 礎研究を行い、従来、尿量増加作用を持ち利尿薬と類似のものと認識されて きた五苓散に脳型の AQP であるAQP4 阻害作用や脳内炎症の抑制効果が あることを見出してきた。この成績をもととなり、最近、五苓散は脳外科領域で 慢性硬膜下血腫の治療および再発防止を目的に使用されるようになった。また、 AQP 機能を亢進する薬物についても検索し、漢方薬の清肺湯を見出している。 清肺湯は外分泌線型の AQP5 の細胞膜局在を増加させる作用を持ち、本作用 を通じてシェーグレン症候群に見られる乾燥症状の緩和が可能ではないかと期 待している。</p><p>本講演では、これらの成績の一端を紹介し、DR の可能性とその資源として の漢方薬の魅力についてお話したい。</p>