- 著者
-
須賀 恭一
- 出版者
- 一般社団法人 日本真空学会
- 雑誌
- 真空工業 (ISSN:18837174)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.4, pp.109-114, 1956-04-05 (Released:2009-09-29)
- 参考文献数
- 12
わが国における果汁 (主として柑橘) の生産と消費がここ数年の間に著しい発展を示したことは衆知の通りであるが、その発展が予想外に急激なため生産技術は追随に手一杯といつた感じであつた。その上昨年の柑橘の豊作にともなう製品過剰に重ねて柑橘類の隔年結果に基因する原料高により本年は赤字生産ともいわれる程で、果汁工業もやや頭打ちの状態と考える人もある。然し果汁特に柑橘はわれわれの嗜好にマツチしており、わが国の柑橘果汁の色調は外国のそれよりも優れているから、現在広く市販されているいわゆるオレンジジユースがさらに製造技術の発達により天然果汁を基調としてそれに加うるに新鮮さ、香味などの点でより改善されれば嗜好飲料として益々普及することは明かで、その他栄養飲料としての本格的な天然果汁製品が一層研究し生産されれば柑橘果汁工業の発展は必ずや期して俟つべきものがあると信ずる。このような意味から、果汁の濃縮に当り真空 (といつても低真空であるが) に関係の深い操作面について敢えて概説を試みることにした。果汁といつてもわが国の現状から実際には殆ど柑橘に限られるのは止むを得ない。果実をそのまま食用にすることは時期的に限定され易く運搬・貯蔵にも不便なので、果汁の濃縮が行われる。濃縮といえば唯果汁を濃縮器に送り込めばよいと簡単に考える人が多いが、柑橘は果実の構造が複雑である上に、その果汁は酸化や醗酵を受け易く、フレーバーは容易に破壊され、パルプを残しておくとゼラチン状になり易く、といつてパルプを完全に除去すると芳香が害されるなど種々取扱いに厄介な点がある。従つて濃縮方法の如何を問わず何れの場合も色々な前処理を施すことが必要で、優秀な濃縮機の全価値を発揮するか否かはこの前処理が適当かどうかにあるといつてもよい。