著者
近藤吉将 渡邊亮司 美馬敦 服部滋 加藤源太郎
雑誌
第55回日本脈管学会総会
巻号頁・発行日
2014-10-17

【はじめに】急性動脈閉塞症は,末梢動脈が塞栓子によって突然閉塞されるために阻血症状を呈する疾患である。上肢動脈の急性動脈閉塞は下肢と比べると頻度は低く,指切断や致命的となる症例は少ないといわれる。今回我々は当院で経験した上肢急性動脈閉塞症5例について検討を行ったので報告する。【対象および方法】対象は2012年9月から2014年6月までに当院で治療を行った上肢急性動脈閉塞症5例(男性4名,女性1名,年齢41歳~97歳,平均年齢76.6歳)とした。方法は,症状,原因,閉塞部位,治療開始までに要した時間,治療法,閉塞部位を同定したmodalityについて検討した。【結果】症状は冷感4例,知覚異常4例,蒼白3例,動脈拍動の消失2例,チアノーゼ1例,運動神経麻痺1例であった。塞栓症5例で原因疾患として心房細動2例(左房内血栓1例),OMI後心尖部壁在血栓1例,左鎖骨下動脈壁在血栓1例,原因不明1例であった。閉塞部位は左上腕動脈2例,右上腕動脈1例,左橈骨動脈および尺骨動脈1例,右尺骨動脈1例であった。治療開始までの時間は1から33時間で,平均15時間であった。治療法は血栓除去術3例,血栓溶解療法2例で,1例手掌以下の切断を要した。閉塞部位を同定したmodalityは超音波検査5例であった。【考察】文献的に塞栓は心房細動由来のものが多いとの報告であるが,われわれの症例で基礎に心房細動を合併した症例は5例中2例(40%)であった。心房細動以外の塞栓源の評価に血管エコーが有用であると思われた。【結語】上肢急性動脈閉塞症の評価に超音波検査が有用であった。
著者
石田万里 石田隆史 坂井千恵美 アンディ アリヤンディ 木原康樹 吉栖正生
雑誌
第55回日本脈管学会総会
巻号頁・発行日
2014-10-17

【目的】オメガ‐3系脂肪酸は,全死因死亡と各種心血管疾患のアウトカム(突然死,心臓死,心筋梗塞など)を低減させると報告されている。私たちはこれまで動脈硬化発症のメカニズムにDNA損傷によるゲノムの不安定性が関与していることを報告してきた。そこで本研究では,オメガ‐3系脂肪酸が動脈硬化進展を抑制するメカニズムのひとつとして,ヒト血管内皮細胞のDNA損傷をオメガ‐3系脂肪酸が軽減するか否かを検討した。【方法と結果】酸化ストレス(H2O2)によるヒト大動脈内皮細胞のDNA損傷,特に二本鎖切断を,リン酸化ヒストンH2AX抗体を用いた蛍光免疫染色により定量的に評価した。エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)はH2O2による二本鎖切断を有意に減少させた(p<0.05)。DNA損傷応答の主要タンパクであるATMの活性化はEPAおよびDHAによって増強せず,二本鎖切断の減少はDNA修復の増強によるものではないと考えられた。ウェスタンブロットを用いた検討から,EPAおよびDHAは細胞内のカタラーゼの発現を増強することが明らかとなった。そこでCM-H2DCFDAを用いて細胞内活性酸素種(ROS)量を定量したところ,EPAおよびDHAは内因性およびH2O2投与後の細胞内ROS量を有意に抑制した(p<0.05)。【結論】オメガ‐3脂肪酸であるEPAおよびDHAは血管内皮細胞においてH2O2によるDNA損傷を軽減する。この作用はカタラーゼの発現増強およびそれによる細胞内酸化ストレスの減弱によることが示唆された。
著者
山本浩詞 田中陽介 脇山英丘 安宅啓二
雑誌
第55回日本脈管学会総会
巻号頁・発行日
2014-10-17

症例は60台男性。2007年に神鋼加古川病院にてAAAに対するY-graft置換術を施行されている。その後の経過観察中に右内腸骨動脈瘤が徐々に増大,塞栓目的で2013年6月当院に紹介された。CTでは瘤は34mm大,造影早期相では低吸収値を示していたが,後期相で内部が造影され,type2エンドリークが疑われた。Y-graft右脚はCFAに吻合されていたが,EIAの一部は開存し下腹壁動脈が造影されていたが,ここから外陰部動脈が造影され,内腸骨動脈に連続するような画像を確認できた。CFAは吻合部であるため同部を慎重に18Gサーフロー針で穿刺し,外筒をシース代わりにマイクロカテーテルを挿入して施行した。外陰部動脈から内陰部動脈を介し内腸骨動脈本幹が描出された。マイクロカテを瘤内まで進め塞栓を施行した。このルートから陰茎背動脈も分岐しており,性機能温存の為液体塞栓物質(NBCA等)は使用せず,瘤内から本幹にかて18トルネードコイル18本で塞栓施行。術後瘤内の血流は消失し,良好に経過している。AAA治療後のtype2による内腸骨動脈瘤の血管内治療は困難な事が多い。当院では深大腿動脈からの側副路を塞栓した症例・CTガイドにより上殿動脈を穿刺ここからマイクロカテーテルを挿入し塞栓した症例を経験し,良好な結果を得ている。今回のケースを含め,側副血行が発達していることが多く,術前の詳細なCT診断にて,適切なアプローチルートを選択する事でマイクロカテーテルを進めての血管内治療は有効な治療法であると考える。
著者
和田有子 田中夕祈 嶋谷裕子 山田雄次 長谷川藍子 肥田重明 谷口俊一郎 寺崎貴光 瀬戸達一郎 福井大祐 高野環 伊藤研一
出版者
一般社団法人 日本脈管学会
雑誌
第55回日本脈管学会総会
巻号頁・発行日
2014-10-17

ヒトや哺乳類の常在菌であり病原性のない嫌気性菌であるBifidobacterium longum(B.Longum)菌を嫌気的環境への特異的DDSとして用いた血管新生療法の可能性について,ヒトbFGF遺伝子を組み込んだbFGF-B.Longumを作製し検討した。【方法】ヒトbFGF遺伝子およびその発現遺伝子を組み込んだプラスミドベクターをB.Longum菌にトランスフェクトし,bFGF-B.Longumを作製した。これをマウス下肢虚血モデル(bulb/c,14W)に尾静注した。投与後3日目および血流改善後にサクリファイスを行い,健常下肢,虚血下肢それぞれの組織内菌数を建嫌気培養にて確認した。ついでレーザードップラー血流計を用いて経時的に下肢血流を測定した。【結果】bFGF-B.Longumは投与後3日目には健常部位から消失し虚血部位にのみ集積した。血流改善後は患肢からも消失した。またbFGF-B.Longum投与群ではPBS投与群に比べ有意に下肢血流を改善した。【考察】bFGF-B.Longumは全身投与(静注)によっても虚血部位にのみ特異的に集積し,局所での血流改善をきたすこと,また血流改善以降は自然に治療部位より消失することが示された。既存の血管新生療法はそのDDSに虚血部位特異性がないため,一般的に筋注や動注で用いられその侵襲性が問題となる上,副作用発現時や治療後の遺伝子の除去が困難といった問題がある。B.LongumをDDSとして用いた血管新生療法は,デリバリーシステムの疾患部位特異性と虚血感度によって,低侵襲でかつ安全な治療法となりうると考えられた。