著者
佐藤 正弘 サトウ マサヒロ SATO MASAHIRO
出版者
西南学院大学学術研究所
雑誌
西南学院大学商学論集 (ISSN:02863324)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.335-351, 2016-03

インターネットが普及し始めた1990年代後半以降、我が国においても「コントロール革命」が起き、消費者の情報コントロール力が増大している。Shapiro(1999)によれば、コントロール革命とは、情報のコントロール力が政府、企業、そしてメディアから個人である消費者に移行したことを意味する。たしかにインターネットが普及する以前は、情報のコントロール力を握っていたのは政府、企業、そしてメディアであり、我々消費者たちは彼らが発信する情報を一方的に受信するだけの受け身の存在であった。しかし、インターネットの登場により、我々消費者も能動的に情報を発信することが可能となり、以前のようにただ情報を受信するだけの存在ではなくなってきた。例えば、近年では製品・サービスに不具合などがあった場合、消費者はtwitterやFacebookなどのSNS上で簡単にその情報を発信することが可能である。最近では、カップ焼きそば「ぺヤング」の中にゴキブリが混入していたことをtwitter上にアップした消費者のツイートが拡散したことによって、製造元のまるか食品が「ぺヤング」の販売中止を決定した。このように、消費者がインターネット上に発する情報が、企業の売上や経営などに多大な影響を与える時代、それがコントロール革命によってもたらされた現代の情報化社会である。そして、日本でコントロール革命が起きていることを知らしめた最初の事件は、1999年に起きた東芝クレーマー事件である。この事件によって、企業は消費者の苦情対応の重要性を痛感させられたのである。従来であれば、消費者が製品・サービスに不満を持って企業に苦情を言い、その対応が悪かったとしても、その情報は消費者の周囲の人々にしか拡散することはなかった。しかし、コントロール革命後の社会では、インターネットを通じてこれらの情報が簡単に日本中あるいは世界中に拡散してしまうようになった。そこで、企業は従来よりも苦情対応に細心の注意を払う必要に迫られ、苦情マネジメントの重要性が高まっている。しかし、苦情マネジメントに関する先行研究を振り返ってみても、苦情行動や苦情対応に対する研究は存在するものの、東芝クレーマー事件のような情報化社会を視野に入れた苦情マネジメントモデルは存在しないのが現状である。そこで、本稿の目的は、近年このように重要性が高まっている苦情マネジメントについて、2種類のVoice行動を考慮した新たなモデルを提案し、情報化社会の苦情マネジメント研究に貢献することである。本稿では、まず2章にて日本でのコントロール革命の契機と言われる東芝クレーマー事件について、その概観を整理し、インターネットの特性についても言及する。その後、2章では、東芝クレーマー事件、小林製薬、スターバックス・コーヒー、そして米マクドナルドの事例をもとに、2つのVoiceを考慮した苦情マネジメントモデルを提案する。最後に、4章では、本稿のまとめと今後の課題について述べることにする。
著者
西野 宗雄 ニシノ ムネオ NISHINO MUNEO
出版者
西南学院大学学術研究所
雑誌
西南学院大学商学論集 (ISSN:02863324)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.35-86, 2015-03

私は本稿(1)において次の3つの論題を考察し、また一つの新しい仮説を提示する。第1。私は前稿(2)において2014年世界同時不況(仮説)を提示したが、この仮説は2014年度末の時点でどこまで証明できるのか、あるいはできないのか。これが第1の論題である。第2。2014年後半に発生した原油価格の急落が日本のような石油消費国側の国民経済に及ぼす影響とはどのようなものとして理解できるのか。これが第2の論題である。第3。日本銀行は2%インフレ目標値の達成を最優先する異次元金融緩和政策を実施しているが、この政策の効果、副作用、弊害とはどういうものであるのか。これが第3の論題である。最後に残された課題を提示しておきたい。私の判断では、2015年世界経済論議のもっとも重要な論点の一つは、2015年中に「逆オイルショック」の発生可能性はあるのか、また世界各国における同時的な生産の大幅な収縮の発生可能性、すなわち世界同時不況の発生可能性の現実性への展開はあるのかどうか、というものである。私は、現実の世界経済の探究作業を進めるうえで、この世界同時不況の発生可能性論こそ有用な仮説と考えている。そこで、改めて、2015年世界同時不況(仮説)、あるいは14年と15年を有意味に連続した期間としたうえで立てられる2014-15年世界同時不況(仮説)を提起しておくことにする。
著者
西野 宗雄 ニシノ ムネオ NISHINO MUNEO
出版者
西南学院大学学術研究所
雑誌
西南学院大学商学論集 (ISSN:02863324)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.1-35, 2013-12

2013年10月1日安倍首相は現行消費税率(5%)の8%への引き上げ(14年4月実施)を決定した。様々な立場の人たちが2013年10月現在にまで至るまでに消費増税の是非について見解を開陳してきた。私は、消費税はそのうちにどのような軽減措置などを導入してもいわゆる逆進性を解消できない形態の税制とみており、実質的な税負担の社会的な平等や公平の観点を擁護する立場から、現行の消費税制度それ自体を現行の行財政の変更を前提に廃止するべきものだと考えている。それゆえ、消費税増税は当然不適切であると考えていることは言うまでもない。ちなみに、消費税増税は富裕者層の税負担も強化する効果があるという説について批評するなら、その効果はその限りで否定できないのであるが、しかし富裕者層の税負担の増大をはかることを是とするなら、所得累進性をもつ所得税率体系の修正こそがその趣旨に最適である。本稿の第1の作業はこれらの論点のうち今回の消費税増税の目的や意義などを巡る側面を批判的に整理し、消費税増税を回避するための諸方策に言及することである。その第2の作業は、今日的な内外の社会経済環境の中で消費税増税が惹起する国民経済への悪影響について一定の判断を提示することである。消費税増税が国内の経済事情からみて景気の減退をもたらす可能性は非常に強い。この点は消費税増税に賛成する側も反対する側からも大方支持されているようである。だからこそ総額5兆円の消費税増税対策が出てきたのである。しかしこの対策はまったく的を外しているし、この対策が消費税率引き上げ以上の賃金引き上げをなんら保障していない。それゆえ、賃金デフレ、賃金停滞の下での消費税増税の実施は、それに起因した大衆の消費購買力の削減や停滞を契機とする景気減速をもたらす可能性は大きいと言わなくてはならない。だがそれ以上に、私の考えでは、消費税増税は特に海外経済事情の観点からみて景気の悪化を加速する可能性が強いという点でもまことに愚策である。というのも、私は今夏以来、2014年に世界経済は同時不況に陥る公算が大きいという仮説を立ててその動向を観察してきたのであるが、この公算が現実化する諸条件が時間の経過とともに形成されているからである。消費税増税の14年4月実施による日本の景気減速は世界経済を縮小させる一因であるとともに、この増税は世界不況に巻き込まれた日本の産業社会に大幅な景気減退など倍加された災厄をもたらし、多くの住民を苦境に追いやることになると、思念できるからである。本稿では第1章で第1の作業を行い、第2章で第2の作業を行う。