著者
藤井 崇
出版者
京都大学大学院文学研究科西洋史学研究室
雑誌
西洋古代史研究 (ISSN:13468405)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.21-38, 2002-03-25

第2次ポエニ戦争終結からグラックス兄弟の改革に至る共和政中期は, 共和政のシステムがよく機能した時代であるといわれている。その共和政の実態はクリエンテラ関係に基づくノビレス支配であったとする説が長らく支配的であったが, 近年これにたいする批判として, 一般市民の持つ制度的権利の再評価の傾向が顕著である。これをうけて, 本稿は市民の制度的権利の社会的前提として, 軍務の果たしていた役割について考察することをその目的としている。まず, 本稿は徴兵の現場に焦点を合わせ, 徴兵をおこなう側の政治指導者層と徴兵される側の一般市民の関係を考察した。その結果, 軍務を中心的に担うのは一般市民であるという共通認識のもと, 一般市民は自律的に行動し, 政治指導者層も彼らを強権的に徴兵するのではなく, ある程度丁寧な対応をしている状況が明らかになった。次に, 本稿はこの両者の関係をフォルムにおける政治の場に敷衍することを試みた。そして, 最終的に筆者は, 一般市民が民会や法廷で制度的権利を行使する際, 彼らの果たしていた軍務は権利の実効性を高める社会的前提として機能し, それゆえに政治指導者層も彼らの重要性を認識して呼びかけや弁論をおこなう必要があったと結論付けている。