著者
渡邉 徹
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Management (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.29, pp.105-119, 2020-01

官民一体となった取組みや行き過ぎた円高の是正などが奏功し、長らく緩やかな増加基調にあったインバウンド(訪日外国人旅行)は、とりわけ平成最後の10年間に急増した。人口減少社会は将来的にますます進展すると予測されている中、少なくとも短期間に我が国経済や財政を取り巻く困難が低減するとは考えにくい。一方、海外に目を向けると、周辺国との間で政治的困難を抱えている。インバウンドは経済効果をもたらすだけでなく、国際相互理解も増進するとされており、インバウンド誘致は令和時代にますます重要性を増すと思われる。しかし、訪日外国人旅行者数の対前年比増加率をみると、平成27(2015)年の約47.1%をピークとして、近年は低下傾向にある。費目別訪日外国人旅行者一人あたり消費額の推移をみても、「爆買い」が新語・流行語大賞の年間大賞を受賞した平成27(2015)年をピークに買物代は減少傾向にあり、訪日外国人旅行消費全体として頭打ちとなっている。そこで、近年盛んに指摘されているのは、ショッピング等「モノ消費」を目的とする訪日旅行から、日本ならではの体験、すなわち「コト消費」を目的とする訪日旅行への転換の必要性 である。平成29(2017)年10月に観光庁が設置した検討会議は、翌年3月に訪日外国人旅行者によるコト消費を促進するための提言をとりまとめたが、これに関連し、①効果的な情報発信、②ソフト面の受入環境の整備、の重要性が指摘されうる。観光立国の実現に向け、観光立国推進基本法は国及び地方公共団体のほか、住民や観光事業者にも参画を求めている。訪日外国人旅行者にとり魅力的な観光地域を形成するため、住民、すなわち日本人一人一人には、「草の根外交官」であることを自覚し、各人に可能なことを実践することが求められているといえよう。
著者
横井 由利
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Management (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.27, pp.69-92, 2019-01

壮麗なヴェルサイユ宮殿を作り太陽王と称されフランスに君臨したルイ14世の時代、お洒落の達人としてヨーロッパからロシアまで名を馳せたマリー・アントワネットの時代を経て、「モードの都」パリのイメージは確立していった。19世紀に入ると、イギリスより移り住んだシャルル・フレデリック・ウォルトは現在のオートクチュールのシステムを考案し、その後登場するデザイナーによってオートクチュールビジネスは多様化し発展するが、70年代以降は、時代の変化に伴い衰退と再生を繰り返すことになる。本稿では、オートクチュールのビジネスシステムと文化的な側面を紐解き、スピードと量が問われるデジタル時代にあって、多くの職人の手と時間をかけて完成するオートクチュールの服は、モード界に必要か否か、またそのあり方について論じていく。
著者
小川 功
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Management (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.26, pp.1-27, 2018-07

昭和58(1983)年米国系巨大テーマパークが本邦に初進出した際、遊園地、ホテル、航空、旅行等の観光関連業界に衝撃を与えた。独自の観光デザインを振りかざす米国人指導者の猛威に運営会社の社員でさえ辟易した。こんな中で"黒船"が到来した地元浦安には"攘夷""反米"の大漁旗もなく概して歓迎一色であった。水質汚染で生業の漁業が立ち行かず、漁民の総意で漁業権を泣く泣く放棄した町が思い描いたコミュニティデザインこそが「東洋一の遊園地」だったからである。町民の夢を社名に戴くオリエンタルランド社が社内外の障害とりわけ身内筋からの「妨害や邪魔」を乗り越え開園出来たのは地元の熱望あればこそであった。 本稿は巨大パーク開園前後の日米双方のデザインの相克と地域融合問題を、一観客として市民として取引企業社員として、そして何より当該巨大プロジェクトの融資に関わった金融人の生き残りとして回顧したものである。①勤務先金融機関の大先輩と浦安沖埋立事業との因縁、②約40年前の埋立地の殺風景、③GHQと畏怖された派遣部隊との軋轢、④和洋の和解と融合、⑤パーク成功の要因等に言及しつつ、最後に浦安のパークがホンモノか否か、鉄道愛好者として名高いウォルトが当初鉄道パークを夢想し創設したアナハイムに存在するのに、浦安には見当らない重要なアイテムに関する筆者独自の見解を述べる。
著者
崔 勝淏
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Management (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.26, pp.41-63, 2018-07

今まで日本の労働社会は、これまで高費用と比較的解雇の難しい正社員を減らす一方、低賃金と解雇が容易な非正規職を拡大する方向で進展してきたと言えよう。そうすることで日本の労働市場全体が非正規に大きく依存するような形で進められてきており、今までの雇用のルールを大きく変更してきたと言えよう。しかし、近年、増加しすぎた非正規雇用の不安の高まりと労働市場の不安の拡大に、社会的懸念と反発が高まるにつれ、非正規の正規職化が議論されるようになってきた。 そこで、本論文の目的は、現在議論されている非正規の正規化の一形態であるとされる、「限定正社員」という新たな雇用形態を巡る諸側面を分析することによって、限定正社員化が果たして非正規職問題を解決するために有効な意昧を持つものなのかについて検討することにある。それは、近年の働き方改革の一環として、多様な働き方の議論の延長線上に提案されるものであり、多様な正社員化の議論の一種でもあると言える。 本論文で分析を行った結果、非正規職の問題を解決しようとする政府の意志が確認できる肯定的な側面はあるものの、現在、導人しつつある「限定正杜員」制度は、やはり多くの限界があり、様々な次元で再評価と再検証が必要であると結論付ける。そして日本の非正規問題の解決には、従来の日本の雇用システムにおける多様な側面の再検討とともに、何より賃金体系の抜本的な改革を伴った新たなニッポン型雇用システムの構築が必要であることを提案する。