著者
田中 利昌
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第50回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.111, 2010 (Released:2010-10-15)

【目的】 パーキンソン歩行の原因として左右の協調性運動障害が報告されている。さらに、パーキンソン患者に対して、エルゴメーター訓練を行った場合、協調性運動が行えない為にペダル駆動が障害されるとの報告もあることことから、歩行障害の原因には協調性運動が影響している可能性が考えられる。また、自転車エルゴメーター訓練によりすくみ足の改善が報告されているものもあり、ペダリング運動はパーキンソン歩行にも何らかの運動効果を与えると考えた。この実験ではパーキンソン歩行の分析とペダリング運動が与えるパーキンソン歩行への影響について調べ、自転車エルゴメーターの有用性を調べる事が目的である。 【方法】 自転車エルゴメーターを使用し時間5分の設定で毎週5回施行し、2ヶ月後に歩行に現れた変化を記録する。ペダル回転数/分の設定はしない。原疾患による日内変動を考慮し、薬効時間が最大の時にUPDRSを基準とし、自覚症状を判断基準に入れながら変動の差が少ない時に、時間と歩数、さらに10m歩行を計測し歩容の変化を記録する。対象者の年齢、合併症等を考慮し、最大心拍数はKarvonen係数によってその値以下で行えるように負荷無しの状態とする。 【説明と同意】 本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に対しては実験内容に関する十分な説明の上、同意の得られた者を対象として研究実施した。 【結果】 歩数・時間 対象者A 歩数41歩→32歩 時間23.19秒→15.22秒 対象者B 歩数40歩→33歩 時間20.91秒→16.67秒 対象者C 歩数33歩→30歩 時間15.77秒→15.41秒 重複歩距離 対象者A Rt40.00cm→50.90cm Lt40.00cm→52.30cm 対象者B Rt50.36cm→60.27cm Lt49.79cm→58.83cm 対象者C Rt58.14cm→67.69cm Lt60.43cm→67.76cm 足角 対象者A Rt11.80°→7.00°Lt27.00°→7.50° 対象者B Rt9.65°→9.69° Lt3.63°→3.35° 対象者C Rt20.35°→14.67° Lt15.13°→12.53° 歩容のバラツキ具合 3名共改善を示した 【考察】 今回の実験結果からは3名共に有意な差がみられた。左右対称の動きを常に同じ間隔で繰り返す事でペダル位置やクランクの距離を誤差修正しながら学習し、歩容に改善が見られるという結果に繋がったのではないかと考えられる。 パーキンソン歩行の原因は協調性障害等により、歩行中の重複歩距離を安定出来ない事である可能性が高く、今回の実験結果からは対象者には歩幅、重複歩に有意な変化が現れ、また一歩における歩容がそれぞれ安定した数値に近づいた為、自転車エルゴメーターはパーキンソン病における歩行障害を改善出来る一つの手段としては転倒リスクも少なく有用であると考えられる。 今後もまだまだ継続したデータ取得が必要であり、今回の結果についても全てのパーキンソン患者にも有用と当てはまるのか等についても症例を重ね検討していかなければならない。 【理学療法研究としての意義】 パーキンソン病は高齢者では100人に一人以上の割合で罹患する高有病率な疾患である。中脳黒質のドーパミン神経細胞が減少するため、線条体のドーパミン量が低下し、運動障害が生じる。運動障害の中で最も生活動作において影響の受けるものが歩行であり、歩行障害は患者の活動性を低下させ、歩行中の転倒の危険性を高める一因となる。また、患者本人には移動能力を奪うだけでなく、精神的負担を与えQOL低下にも大きく影響する。パーキンソン病の歩行を手軽にかつ安全に向上させる方法が普及すれば患者の大きなメリットとなる。
著者
小嶌 康介 中村 潤二 北別府 慎介(OT) 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第50回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.78, 2010 (Released:2010-10-15)

【目的】筋電誘発電気刺激(ETMS)は脳卒中後の運動麻痺の改善を目的として近年試みられている治療であり,随意運動時に生じる筋放電を表面電極を介して測定し,設定された閾値を越えると電気刺激が誘発され筋収縮を引き起こす治療方法である。海外では脳卒中患者の手関節背屈筋群に対してETMSを実施した研究報告が散見されるがシステマティック・レビューでもETMSの治療効果はいまだ確立されておらず,本邦での治療報告はほとんどないのが現状である。一方で脳卒中患者の麻痺側上肢に対する他のアプローチとしてミラーセラピー(MT)による治療報告が散見される。MTでは,鏡像による視覚フィードバックにより脳へ錯覚入力を与え,その錯覚により運動感覚を生成し,運動前野や運動野の活性化をもたらし,運動麻痺を改善させることが考えられている。しかしMTの先行研究も多くは小サンプルであり,治療効果が確立されるには至っていない。ETMSとMTは,それぞれ異なる形で大脳皮質の損傷側の神経ネットワークの再構築にアプローチしており,両者を組み合わせることでより高い治療効果をもたらす可能性が考えられる。そこで今回,脳卒中患者の麻痺側上肢に対してETMSとMTの組み合わせ治療(ETMS-MT)を実施し,その臨床変化を捉え考察することとする。 【方法】対象は同意の得られた脳卒中患者2症例とした。症例1は脳梗塞発症後86日を経過した84歳の左片麻痺女性で研究参加時の運動麻痺はBrunnstrom Recovery Stage(BRS)にて,上肢stage_III_,手指stage_IV_であった。症例2は脳梗塞発症後111日を経過した72歳の左片麻痺男性でBRSは上肢stage_V_,手指stage_IV_であった。両症例とも口頭指示を理解し,著明な認知機能低下や高次脳機能障害はみられなかった。 ETMS-MTは椅子座位,両前腕を台上にのせた肢位で実施した。電極を設置した状態で麻痺側前腕以遠を卓上鏡にて隠し,その位置に非麻痺側前腕と手の鏡像を知覚するようにし,対象には常に鏡像を注視するよう指示した。電気刺激パラメータのon/off時間のうちonの時間は機器の聴覚信号に併せて両上肢同時に手関節背屈の随意努力を行い,offの時間は両側上肢で手関節,手指の運動を同調させて行った。 治療機器はChattanooga社製Intelect Advanced comboを使用した。電気刺激パラメータは周波数50Hz,パルス幅200μsecの対称性二相性電流を使用し,on/off時間は10/20秒とした。電流強度は疼痛を生じず,最大限の関節運動が起こる程度とし,閾値は手関節背屈の最大随意努力時とし対象の状態に併せて治療者が適宜調整を行った。対象筋は麻痺側尺側手根伸筋とした。 研究デザインにはBA型シングルケースデザインを用い,操作導入期(B期),治療撤回期(A期)はそれぞれ4週間とした。B期には標準的理学療法(PT),作業療法(OT)と併せてETMS-MTを1セッション20分間を2回/日,5日/週,4週間実施した。A期にはPT,OTのみを実施した。評価項目はFugl-Meyer Motor Assessment Scale上肢項目(FM),手関節背屈の自動関節可動域(AROM),握力,Box and Block Test(BBT),Wolf Motor Function Test(WMFT),Motor Activity Log(MAL)とした。 【説明と同意】本研究への参加を求めるにあたり,対象には本研究の目的や予測される治療効果および危険性について説明を行い,参加同意書に署名を得た。 【結果】B期には症例1,2はそれぞれFMにて11点,7点,AROMにて10°,0°握力にて2.0kg,1.0kg,BBTにて8個,6個,WMFTにて496.0秒,40.5秒,MALにて0.51点,0.99点と殆どの評価にて改善を示した。A期にはそれぞれFMにて5点,4点,AROMにて-5°,0°,握力にて0.5kg,3.0kg,BBTにて1個,2個,WMFTにて-47.1秒,7.4秒,MALにて-0.17点,-0.41点と変化し,一部の項目に低下もみられたが,わずかな改善傾向を示した。FMとWMFT,MAL,BBTは両症例ともB期により大きな改善を示した。 【考察】両症例ともB期に多くの改善を示しており,FMやWMFTの中でも手関節の分離運動や手の巧緻動作の項目に改善が多いことから,ETMS- MTが麻痺手の機能回復に寄与した可能性が考えられた。今後は症例数の増加,比較対照群の設定などにより,治療効果の検証を行っていく必要がある。 【理学療法研究としての意義】今回は2症例のみでの検証であったが,ETMS-MTは脳卒中後の上肢運動麻痺に対する新たな治療方法として今後の更なる検証の必要性が示唆された。