著者
徳久 謙太郎 鶴田 佳世 小嶌 康介 兼松 大和 三好 卓宏 高取 克彦 庄本 康治 嶋田 智明
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.167-177, 2012-06-20 (Released:2018-08-25)
被引用文献数
1

【目的】脳卒中患者の日常生活活動に関連した立位・歩行時の身体動作能力を評価する,ラッシュモデルに適合した新しい尺度,脳卒中身体動作能力尺度(SPPS)を開発すること。【方法】脳卒中患者の日常生活場面の観察をもとに,身体動作25項目から構成される仮尺度を作成した。この仮尺度を2施設の脳卒中患者102名に5段階評点を用いて実施し,評点段階および項目をラッシュ分析にて解析して本尺度を完成させた。またこの尺度の一次元性および尺度全体の信頼性を検討した。【結果】評点段階分析では軽介助と監視の段階が統合され,4段階評点となった。項目選択分析では,9項目が除外され,16項目から構成されるSPPSが完成した。SPPSの一次元性および尺度全体の信頼性は良好であった。【結論】SPPSは脳卒中患者の日常生活活動に関連した立位・歩行時の身体動作能力を評価する尺度であり,その間隔尺度化が可能な特性は,臨床および研究に有用であろう。
著者
小嶌 康介 生野 公貴 庄本 康治
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.64-68, 2014 (Released:2022-09-03)
参考文献数
13

本研究の目的は脳卒中1症例にて部分免荷トレッドミル歩行訓練(BWSTT)と足関節背屈筋に対する随意運動介助型電気刺激(IVES)の併用治療の臨床有用性を検証することとした.対象は脳梗塞後左片麻痺を呈した59歳男性とした.研究デザインは各期4週間のABデザインを用い,8週間のフォローアップを行った.B期にBWSTTとIVESの併用治療を実施した.評価はFugl-Meyer Assessment(FMA),足関節背屈の自動関節可動域(A-ROM),膝伸展筋力,10 m歩行速度,2分間歩行距離(2MD)とした.FMA,10 m歩行速度はA期に最も改善した.膝伸展筋力はフォローアップに最も改善した.A-ROMと2MDはB期に最も改善した.機器設定は5分程度で可能で治療の受け入れは良好であった.A-ROMや2MDのB期の改善について本治療が足関節の随意性や歩行の協調性の改善に寄与したものと考えられた.本治療の臨床有用性は良好であった.
著者
鶴田 佳世 中村 潤二 小嶌 康介 中村 佑樹 岡本 昌幸 菅野 ひとみ 尾川 達也 徳久 謙太郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】「市町村介護予防強化推進事業」は,平成24年度から厚生労働省のモデル事業として13の市町村で実施された。この事業は生活範囲が狭小化した高齢者を対象に,通所と訪問を組み合わせた介護予防事業を3か月程度実施し,日常生活の改善を図った後,運動や食事を楽しむことのできる通いの場に移行して,状態の維持を図るものと位置づけられている。今回このモデル事業に参加し,行政職を含む地域の専門職と協働してアプローチすることにより機能向上のみならず,参加者の生活に密着したサービスの提供や支援を検討し,社会参加へつながった事例を経験したので報告する。【方法】事例1は要支援2の70歳代女性で肺炎後廃用症候群で,既往歴は腰椎椎体偽関節であった。ニードは腰痛が軽減し,しっかり歩きたいとのことであった。身体機能は筋力,全身持久力,歩行能力の低下があり,基本動作,ADL,IADLは一部介助であった。普段はコルセットを使用し,屋内移動は伝い歩きが何とか可能なレベルであった。事例2は要支援2の80歳代男性で両変形性膝関節症であった。ニードは体力の低下とともに辞めた趣味の再開と元気になって外出したいとのことであった。身体機能は筋力,全身持久力,歩行能力の低下があり,ADLは自立,IADL一部介助で,屋内はT字杖歩行自立,屋外は一部介助で外出の機会は少なかった。事業の開催頻度は3か月間を1クールとし,通所が1回2時間,2回/週で全24回,訪問が1人あたり1から3回/3か月であった。参加者は各クール約15名程度で,地域ケア会議は3か月間で初期,中間,最終の3回開催された。通所ではマシンやゴムバンドを使用した筋力増強運動,バランス練習,療法士による個別課題練習,訪問ではIADL実施状況の評価や指導,家屋評価,住宅改修や代替案の提案,自主練習,ADL,IADL指導などを実施した。地域ケア会議では,初期から中間,中間から最終までの間の変化,目標の見直し,各専門職の役割分担などを確認し,療法士として主に運動面,自宅環境の確認と福祉用具の選定および生活環境に合わせ活動性向上のための戦略などを提案した。評価項目は,椅子長座位体前屈(体前屈),5m歩行時間,Timed Up & Go test(TUG),握力,30秒起立試験(CS30),Frenchay Activities Index(FAI),2分間ステップ(2MS)とし,初期と3か月後に評価を行った。個別の介入として,事例1では地域ケア会議において本人が習慣にしていた行動や希望を確認し,その実現可能性を多職種にて検討した。療法士は,通所での個別歩行練習と訪問での自宅内動作確認と指導を行い,体力の向上に合わせて活動範囲を広げていくために,自宅周囲の歩行練習および教室終了後に通う場所までの移動確認などを行った。事例2では,運動継続の動機づけのために疼痛のフォローが不可欠であったため,通所では疼痛,負荷管理しながらの個別運動指導を行い,訪問では自宅内動作の確認,環境面の特性を包括担当者と検討を重ね歩行練習が可能な場所や方法の検討を行った。【結果】事例1の主な身体機能面の結果は,5m歩行時間(秒)5.1から3.9,CS30(回)11から16,FAI(点)13から19点,2MS(回)測定不可から47であった。IADLは,洗濯物の取り込みが可能となり習慣化したこと,近所の神社へのお参りや友人宅への訪問を再開するなどの活動性の向上がみられた。事例2の結果は,5m歩行時間6.3から4.3,CS3014から19,FAI20から21,2MS47から59であった。IADLは,自宅の庭の手入れの再開や家事への参加,教室終了後にボランティアに参加するなど活動性向上を認めた。【考察】事例1では,本人の元の生活を取り戻したいという意欲を目標に取り込み,関連ある目標を段階的に設定し,達成していくことで機能,活動,参加での改善がみられた。事例2では疼痛管理と自主練習の指導,個別の運動負荷設定を行うことで,同様の改善がみられた。従来の介護予防教室では,ADLやIADLの変化まで追跡するのは困難であったが,今回地域ケア会議を通して個人因子を深く検討したこと,通所と訪問の併用により機能,活動,環境の面から多職種が連携して評価・介入が出来たことでADL,IADLにまで介入し改善がみられた。それに加え予防を意識した活発な生活環境を提供することができた。【理学療法学研究としての意義】今後,地域包括ケアシステムに理学療法士が参画するうえで,地域ケア会議を含む多職種と連携していく場において,参加者中心の生活を捉えた包括的介入に効果的な関わりを持てることを示すことができた。
著者
小嶌 康介 中村 潤二 北別府 慎介(OT) 梛野 浩司 庄本 康治
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第50回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.78, 2010 (Released:2010-10-15)

【目的】筋電誘発電気刺激(ETMS)は脳卒中後の運動麻痺の改善を目的として近年試みられている治療であり,随意運動時に生じる筋放電を表面電極を介して測定し,設定された閾値を越えると電気刺激が誘発され筋収縮を引き起こす治療方法である。海外では脳卒中患者の手関節背屈筋群に対してETMSを実施した研究報告が散見されるがシステマティック・レビューでもETMSの治療効果はいまだ確立されておらず,本邦での治療報告はほとんどないのが現状である。一方で脳卒中患者の麻痺側上肢に対する他のアプローチとしてミラーセラピー(MT)による治療報告が散見される。MTでは,鏡像による視覚フィードバックにより脳へ錯覚入力を与え,その錯覚により運動感覚を生成し,運動前野や運動野の活性化をもたらし,運動麻痺を改善させることが考えられている。しかしMTの先行研究も多くは小サンプルであり,治療効果が確立されるには至っていない。ETMSとMTは,それぞれ異なる形で大脳皮質の損傷側の神経ネットワークの再構築にアプローチしており,両者を組み合わせることでより高い治療効果をもたらす可能性が考えられる。そこで今回,脳卒中患者の麻痺側上肢に対してETMSとMTの組み合わせ治療(ETMS-MT)を実施し,その臨床変化を捉え考察することとする。 【方法】対象は同意の得られた脳卒中患者2症例とした。症例1は脳梗塞発症後86日を経過した84歳の左片麻痺女性で研究参加時の運動麻痺はBrunnstrom Recovery Stage(BRS)にて,上肢stage_III_,手指stage_IV_であった。症例2は脳梗塞発症後111日を経過した72歳の左片麻痺男性でBRSは上肢stage_V_,手指stage_IV_であった。両症例とも口頭指示を理解し,著明な認知機能低下や高次脳機能障害はみられなかった。 ETMS-MTは椅子座位,両前腕を台上にのせた肢位で実施した。電極を設置した状態で麻痺側前腕以遠を卓上鏡にて隠し,その位置に非麻痺側前腕と手の鏡像を知覚するようにし,対象には常に鏡像を注視するよう指示した。電気刺激パラメータのon/off時間のうちonの時間は機器の聴覚信号に併せて両上肢同時に手関節背屈の随意努力を行い,offの時間は両側上肢で手関節,手指の運動を同調させて行った。 治療機器はChattanooga社製Intelect Advanced comboを使用した。電気刺激パラメータは周波数50Hz,パルス幅200μsecの対称性二相性電流を使用し,on/off時間は10/20秒とした。電流強度は疼痛を生じず,最大限の関節運動が起こる程度とし,閾値は手関節背屈の最大随意努力時とし対象の状態に併せて治療者が適宜調整を行った。対象筋は麻痺側尺側手根伸筋とした。 研究デザインにはBA型シングルケースデザインを用い,操作導入期(B期),治療撤回期(A期)はそれぞれ4週間とした。B期には標準的理学療法(PT),作業療法(OT)と併せてETMS-MTを1セッション20分間を2回/日,5日/週,4週間実施した。A期にはPT,OTのみを実施した。評価項目はFugl-Meyer Motor Assessment Scale上肢項目(FM),手関節背屈の自動関節可動域(AROM),握力,Box and Block Test(BBT),Wolf Motor Function Test(WMFT),Motor Activity Log(MAL)とした。 【説明と同意】本研究への参加を求めるにあたり,対象には本研究の目的や予測される治療効果および危険性について説明を行い,参加同意書に署名を得た。 【結果】B期には症例1,2はそれぞれFMにて11点,7点,AROMにて10°,0°握力にて2.0kg,1.0kg,BBTにて8個,6個,WMFTにて496.0秒,40.5秒,MALにて0.51点,0.99点と殆どの評価にて改善を示した。A期にはそれぞれFMにて5点,4点,AROMにて-5°,0°,握力にて0.5kg,3.0kg,BBTにて1個,2個,WMFTにて-47.1秒,7.4秒,MALにて-0.17点,-0.41点と変化し,一部の項目に低下もみられたが,わずかな改善傾向を示した。FMとWMFT,MAL,BBTは両症例ともB期により大きな改善を示した。 【考察】両症例ともB期に多くの改善を示しており,FMやWMFTの中でも手関節の分離運動や手の巧緻動作の項目に改善が多いことから,ETMS- MTが麻痺手の機能回復に寄与した可能性が考えられた。今後は症例数の増加,比較対照群の設定などにより,治療効果の検証を行っていく必要がある。 【理学療法研究としての意義】今回は2症例のみでの検証であったが,ETMS-MTは脳卒中後の上肢運動麻痺に対する新たな治療方法として今後の更なる検証の必要性が示唆された。