著者
成田 真由美 川本 思心
出版者
科学技術コミュニケーション教育研究部門 : CoSTEP
雑誌
CoSTEP Report
巻号頁・発行日
vol.5, 2022-03

アイヌ民族が住む土地に「北海道」という名前を付け、開拓の名のもとに本州から大勢の人々が入植してから、約150年が経過した。2020年には、民族共生をうたう民族共生象徴空間(ウポポイ)が開業した。しかし、ウポポイに併設される慰霊施設には、全国の大学等に保管されていたアイヌ遺骨が集約され、返還を待っていること、さらには何故そのようになったのかを知る人は少ないように感じている。遺骨を持ち去られたアイヌの方々の悲しみが二度と繰り返されないことを私は願っているが、問題は絡み合っていて容易には理解できない。そこで私はCoSTEP研修科で、アイヌ遺骨を巡る諸問題に関して関係者へのインタビューを通じて、過去の研究が現在にもたらした「負の側面」に、それぞれの立場でどのように向き合っているのか伺うことにした。筆者の取り組みの趣旨等詳細は成田(2020)を御参照いただきたい。このレポートでは、北海道大学アイヌ・先住民研究センター長である常本照樹教授(所属等は執筆当時)から、アイヌ遺骨問題を中心に慰霊施設建設の経緯や国が考える課題と解決への道筋、諸外国の事情などを伺った内容を報告する。氏は政府の有識者懇談会、政策推進会議の構成員でもあり、「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律(アイヌ施策推進法)」にも尽力した。本稿ではまず第1章でインタビューおよび本稿公開までの概要を説明した。続く第2章では、長時間に及ぶインタビューの内容からポイントを抽出し、文書での追加取材を行った内容を加えたQA形式で要約した。そして第3章ではインタビューの詳細を大まかな内容ごとに節に分けて掲載した。
著者
成田 真由美 川本 思心
出版者
科学技術コミュニケーション教育研究部門 : CoSTEP
雑誌
CoSTEP Report
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, 2022-04

北海道では、過去に「研究のため」と称して大量のアイヌ遺骨を、アイヌの方々が管理する墓地から発掘・収集することを容認する社会的な環境があった。差別と偏見に抑圧されたアイヌ民族は、1970年代から一部のアイヌの方々が中心になり、自らのアイデンティティを確立しようとする「アイヌ民族活動」を展開する。しかし、現在も姿を変えて差別や偏見は残っていると言わざるを得ない。私は、CoSTEP研修科に所属し、アイヌ遺骨を巡る諸問題に関して関係者へのインタビューを通じて、過去の研究が現在にもたらした「負の側面」に、それぞれの立場で、どのように向き合っているのか伺うことにした(成田・川本2020;2021)。本稿はアイヌ遺骨問題に関する関係者インタビューの第3弾となる(成田・川本2022a;2022b)。私にできることを探す第1歩とするために。このレポートでは、北海道に居住しているアイヌ民族を主な構成員とした公益社団法人北海道アイヌ協会(以下、「北海道アイヌ協会」)の事務局長を2015年に定年退職した竹内渉氏に行ったインタビューについて報告する。竹内氏は「アイヌ民族解放運動」を牽引したアイヌ解放同盟の結城庄司代表(1938-1983)の行動を間近に見ており、その思想も理解されている。また、竹内氏は非アイヌであるが、現在もアイヌ・コミュニティの一員として生活されており、非アイヌがアイヌの抱える問題の解決にどのように協働できるか、または求められるものは何かなどもお伺いした。まず第1章でインタビューおよび公開までの概要を説明した。続く第2章では、インタビューの概要を記載した。そして第3章ではインタビューの詳細を大まかな内容ごとに節に分けて掲載した。第4章ではインタビューで触れた事例や団体の概要を補記した。
著者
成田 真由美 川本 思心
出版者
科学技術コミュニケーション教育研究部門 : CoSTEP
雑誌
CoSTEP Report
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, 2022-04

「研究のため」に発掘・収集され、全国の大学が保管していたアイヌ遺骨が民族共生象徴空間(ウポポイ)に併設された慰霊施設に集約された。慰霊施設は、遺骨がアイヌの方々に返還されるまでの間、尊厳のある慰霊を実現し、適切な管理を行うための施設であるとされている。しかし、返還されたアイヌ遺骨はごく一部である。研究の名のもとに大量に発掘・収集され、現在も解決していないアイヌ遺骨問題は、研究が社会に及ぼした「負の側面」を扱う、科学技術コミュニケーションの重要なテーマである。私は、CoSTEP研修科に所属し、アイヌ遺骨を巡る諸問題に関して関係者へのインタビューを通じて、過去の研究が現在にもたらした「負の側面」に、それぞれの立場で、どのように向き合っているのか伺うことにした(成田・川本2020;2021)。遺骨を持ち去られたアイヌの方々の悲しみと怒りを受け止めることが必要であると考えた本稿は、アイヌ遺骨問題に関する関係者インタビューの第2弾となる(成田・川本2022a;2022b)。このレポートでは、強制労働、強制移住を受けたアイヌの子孫であり、平取アイヌ遺骨を考える会の共同代表である木村二三夫氏から、遺骨の返還を求める当事者の声を報告する。まず第1章でインタビューおよび公開までの概要を説明した。続く第2章では、2020年9月25日の本インタビューを中心に、今までの木村氏の講演やラジオ等の内容も参考にし、その主張を要約した。そして第3章ではインタビューの詳細を大まかな内容ごとに節に分けて掲載した。最後の第4章では、木村氏の主張の拠り所のひとつともなる資料『一通の嘆願書』についてまとめた。
著者
大谷 祐紀 川本 思心
出版者
科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
CoSTEP Report
巻号頁・発行日
vol.4, 2021-09

英国は科学技術コミュニケーションが生まれた国ともいわれる。本レポートは、その英国社会で私が束の間みた、COVID-19を取り巻く状況と人々についての微視的な記録である。私は所属大学院のインターンシップ活動として、2020年3月10日に日本から英国エジンバラへ渡航した。渡航時の英国はCOVID-19に対して楽観的な雰囲気だった。WHOによるパンデミック宣言は英国の人々の行動や意識を大きく変えなかったが、トイレットペーパー購入への焦燥を高めた。英国政府は科学的根拠を強調しながら情報を発信し、大学や公共施設は速やかにその指示に従った。一方、飲食店は賃金の補償が示されるまで営業を続けた。私は所属大学院の方針によりインターンシップを中断し、3月23日に日本に帰国後、日本政府の「水際対策強化に係わる新たな措置」のもと14日間自宅待機した。「帰国者の感染確認」といった報道は、他者に迷惑を掛けてしまうかもしれない、という強い不安を私にもたらした。これらの経験から、あらためて情報とその受け手の関係性に関して、科学技術コミュニケーションの課題を認識した。英国における科学的発信では科学者のオープンマインドネスが信頼を生み出していると私は考察したい。また、社会的スティグマ防止の観点では日本政府や報道機関の情報発信には課題があったが、科学者や学術団体による積極的な情報発信はこれからの希望と感じた。