- 著者
-
大谷 祐紀
川本 思心
- 出版者
- 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
- 雑誌
- CoSTEP Report
- 巻号頁・発行日
- vol.4, 2021-09
英国は科学技術コミュニケーションが生まれた国ともいわれる。本レポートは、その英国社会で私が束の間みた、COVID-19を取り巻く状況と人々についての微視的な記録である。私は所属大学院のインターンシップ活動として、2020年3月10日に日本から英国エジンバラへ渡航した。渡航時の英国はCOVID-19に対して楽観的な雰囲気だった。WHOによるパンデミック宣言は英国の人々の行動や意識を大きく変えなかったが、トイレットペーパー購入への焦燥を高めた。英国政府は科学的根拠を強調しながら情報を発信し、大学や公共施設は速やかにその指示に従った。一方、飲食店は賃金の補償が示されるまで営業を続けた。私は所属大学院の方針によりインターンシップを中断し、3月23日に日本に帰国後、日本政府の「水際対策強化に係わる新たな措置」のもと14日間自宅待機した。「帰国者の感染確認」といった報道は、他者に迷惑を掛けてしまうかもしれない、という強い不安を私にもたらした。これらの経験から、あらためて情報とその受け手の関係性に関して、科学技術コミュニケーションの課題を認識した。英国における科学的発信では科学者のオープンマインドネスが信頼を生み出していると私は考察したい。また、社会的スティグマ防止の観点では日本政府や報道機関の情報発信には課題があったが、科学者や学術団体による積極的な情報発信はこれからの希望と感じた。