著者
田中 隆 河野 功
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

タンニンの不溶化が植物の生理現象に深く関わっていることは以前から指摘されており,渋柿の渋味が消失する現象もタンニンが不溶化するためと言われている。この現象に果実の嫌気的呼吸により生成するアセトアルデヒドが関与することが推測されていた。しかし,不溶化したタンニンを化学的に扱った研究は全く無く,化学的証拠は得られていなかった。我々は緩和な条件下で高分子量の縮合型タンニンをメルカプトエタノールで効率よくフラグメントに分解する方法を開発し,カキタンニンの構造を明らかにすると共に,エタノールや温湯で渋抜きした柿,干し柿,熟柿ではタンニンは無くなるのではなく,溶けなくなっているにすぎないことを確認した。また,不溶性タンニンから得られるフラグメントにはアセトアルデヒド由来の置換基を有するユニットが存在することを初めて明らかにし,重エタノールの取込み実験などによってそれがアセトアルデヒド由来であることを確認した。これによりタンニン不溶化へのアセトアルデヒドの直接関与を初めて化学的に証明することが出来た。さらに,モデル実験によりタンニン分子はアセトアルデヒドにより緩やかに架橋されてゲル状になり不溶性となっていることを証明した。同様の機構によりタンニンの不溶化はバナナやブドウでも起こっている可能性が示唆された。一方,甘柿では不溶化は重要ではなく,タンニン細胞の生長が早い時期に停止し,果実の肥大によりタンニンが希釈されて渋味が消えることを確認した。本研究については投稿中である。木材でもタンニン不溶化が起こっていると推測されており,ノグルミ樹皮及び栗の材部のタンニンについて研究を展開し,栗については心材特有のタンニン成分を単離した。その一部については構造をすでに明らかにしており投稿準備中である。

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