著者
五十嵐 由里子
出版者
日本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

古人類集団の人口構造を推定する際に要となるのが、古人骨の年齢推定である。古人骨において比較的残りやすい部位である腸骨耳状面を用いた年齢の推定方法は、Lovejoy et.al(1985)、五十嵐(1990)らによって掲示されている。今回は、東京慈恵会医科大学所蔵の近代日本人骨格標本のうち、生年月日と死亡年月日の記録があり、年齢の信憑性が極めて高い資料(男性30体、女性8体、年齢は25歳から85歳)を用いて、耳状面の形態による年齢の推定方法を新たに作った。新たな方法による年齢の推定値は、従来の方法による値と完全には一致しないことがわかった。縄文時代には地域によって人口構造が異なっていた可能性が、五十嵐(1990)によって示唆されている。今回は国立科学博物館所蔵の、蝦島貝塚(岩手県)人骨(縄文時代後・晩期、男性16体、女性30体、不明16体)を対象として、この集団の人口構造を推定した。年齢推定には今回新たに設定した方法を用いた。結果は以下の通りである。蝦島集団では、30歳代後半から40歳代前半での死亡率が最も高かった。蝦島集団の死亡率は、10歳代後半から30歳代前半では、他の本州集団(福島県三貫地遺跡、愛知県伊川津遺跡、吉胡遺跡、岡山県津雲遺跡)より高いが北海道集団より低く、30歳代後半以降では他のどの集団よりも高い。妊娠痕が判定できた全ての女性個体に妊娠痕が認められた。妊娠回数が多かったと判定した個体は40歳代後半以上の個体の60%を占める。この割合は、他の本州集団より高いが北海道集団より低い。以上の結果から、蝦島集団は、他の本州集団より多産多死傾向にあったが、北海道集団ほどではなかったという可能性が示唆できる。日本大学松戸歯学部で解剖された女性遺体6体について、骨盤上の妊娠痕の観察を行った。今後遺族へのアンケートによって、生前の妊娠出産に関する情報を収集する予定である。

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古人骨の妊娠痕の分析による縄文時代と弥生時代の出生率の地域的および時代的比較研究 https://t.co/4c7DYl0c9N

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