著者
伊藤 正敏 熊野 広昭 窪田 和雄
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

本研究は、がん患者の情動変化を客観的に脳画像として評価する方法を開発し、心理テストを補足する情動検査法を確立することを目標とする。昨年度の研究により全身ポジトロン断層検査(PET)を用いてがん診断を行った72症例の脳画像を用い、帯状回、視床下部、海馬等の大脳辺縁系における広範なブドウ糖代謝の低下を認めた。この変化が脳器質障害によるものなのか、あるいは心因性の障害なのか不明であった。そこで、ドイツのアルバート・ルートヴィヒ大学核医学科との共同研究として、ドイツでのがん患者の脳の解析を行った。年齢・性別をコントロールした正常患者10名との比較をおこない、がん患者と比較した結果、前頭前野、側頭頭頂葉皮質、前・後部帯状回、大脳基底核、などにおいて代謝の低下が確認され、東北大学データを近い結果を得ることができた。また、癌患者21名を、(1)抑鬱度、(2)不安、(3)化学療法の有無、(4)残存癌組織の有無、の四項目に関してサブグループに分け、サブグループ間解析を施行した。その結果、前頭前野、側頭頭頂葉皮質、前部帯状回における代謝低下は、抑鬱度および不安と強い負の相関を示すことがわかった。化学療法の影響が前部帯状回で、腫瘍組織の残存という因子の影響は、小脳および後頭葉において観察されたが、がん患者に観察されるこのような代謝異常は、癌組織による脳に対する生物学的影響というよりも患者の心理的な間題により引き起こされている可能性が高いという結論を得た。一連の研究結果は、スペイン、バルセロナにおけるヨーロッパ核医学会で注目すべき演題として紹介された。

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