著者
小口 一郎
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

研究計画の二年目にあたる本年は、一年目の研究で明らかとなった「宇宙有機体説」または「万象生命体論」の思想が、イギリス・ロマン主義の想像力論の形成に果たした役割を、三つの段階に区分して解明し、合わせて研究成果の総括を行なった。1)まず、フランス革命に代表される急進主義思想と有機体論哲学、そしてロマン主義との関連を初期のロマン主義思想と当時の科学者や政治思想家の中に探った。その結果、政治的急進主義思想を媒介として、キリスト教の千年王国主義と有機体論が結びつき、全宇宙が生命体として進歩するという、生物進化論を産み出したこと、およびこの思想がエラズマス・ダーウィンなどを経由してロマン主義に重要な思想的枠組みを与えたことが明かとなった。2)次にロマン派の第一世代を代表するワーズワスを取り上げ、彼の世界像が有機体的な世界観に書き換えられ、「生命霊気」の概念に基づく新しい文学理論と想像力説を生み出す過程を検証した。この新しい文学観は、精神内面の神格化と、生成発展する自律的自我という、ロマン主義に特有の二つの概念を両立させる思想的装置であることが判明した。これは後にコールリッジにおいて、ドイツロマン派の哲学を取り入れた想像力論として結実した。3)最後に、有機体論の観点から、第二世代のロマン主義者が抱いた想像力論を検証した。その結果、1810年代以降も科学思想は政治的急進主義に影響を受け、パーシー・シェリーの神なき宇宙の動因としての生命霊気、ジョン・キーツの進化論的宇宙論を産み出したことが明かとなり、最終的にメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』において生命霊気が人工的操作の対象として神性を失ったことが判明した。この第二世代のロマン派こそが、現代科学が急速に成立する直前の時代にあって、生命体論や有機体論を文学的思想として昇華し得た最後の世代であった。

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