著者
天野 敦雄 秋山 茂久 森崎 市治郎
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

Porphyromonas gingivalis線毛遺伝子(fimA)は核酸配列の違いにより5つの型に分類される.Polymerase chian reaction(PCR)法を用いたプラーク細菌叢の分析により,歯周病患者から分離されるP. gingivalis株と,健康な歯周組織を有する被験者からのP. gingivalis株の線毛遺伝子(fimA)型の相違を検索した.30歳以上の健康な歯周組織を有する被験者380名と歯周病患者139名からプラークと唾液を採取し,P. gingivalisの検出とfimA型の決定を行った.87.1%の歯周病患者と,36.8%の健康被験者からP. gingivalisが検出され,そのP. gingivalisのfimA型は,健康被験者では80%近くは1型fimA株であり,逆に歯周病患者では2型と4型fimA株が優性であった.特に,2型fimA株は歯周病との相関が,オッズ比で44と計算され,これまで報告されている中で最も強い歯周病のリスクファクターであることが示された.また,2型fimA株の分布は歯周ポケット深さと強い相関性を示し,8mm以上の深いポケットから検出されるP. gingivalisは90%以上が2型株であった.歯周炎に高い感受性を示す遺伝的素因を有し,早期に重篤な歯周疾患が併発するダウン症候群成人患者と,プラークコントロールが著しく不良な精神発達遅滞成人においても同様の検討を加えたところ,歯周病の重篤度とP. gingivalisの2型がfimA保有株との強い関連性が認められ,どのような因子をもつ宿主においても2型fimA保有P. gingivalisの歯周炎への密接な関与が示された.上記5つの型の線毛に対応するリコンビナントタンパク(rFimA)を新たに作製し,ヒト細胞への付着・侵入能を比較した.上皮細胞へのrFimAの結合実験では,2型rFimAが他のrFimAと比較して3〜4倍量の付着を示し,さらに細胞内への侵入も群を抜いて顕著であった.一方,繊維芽細胞への結合では型別による有意な差は認められなかった.rFimAの細胞への付着・侵入は,抗線毛抗体,抗α5β1インテグリン抗体により顕著に阻害され,同インテグリン分子が線毛を介したP. gingivalisのヒト細胞への付着・侵入に関わっていることが示唆された.さらに,各線毛型の代表菌株を用いた付着実験を行った結果,2型線毛遺伝子を保有する株は,30%と高い上皮細胞への侵入率を示したが,3,4,5型線毛株の侵入率は2-5%であった.これらの結果から2型線毛遺伝子を保有するP. gingivalisは口腔内上皮細胞への高い付着・侵入能を有し,上皮によるinnnate immunityを踏破し歯周組織への定着を果たすと考えられ,同遺伝子型のP. gingivalisが歯周病の発症に強く関与していることが示唆された.

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