著者
岸本 美緒
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、身分制度の諸側面を通底する「身分感覚」に焦点をあて、社会的意識という視点から、中国身分制度の全体像を長期的な視野で再構成することを目指した。具体的には、明初から清代中期に至る時期の良賤身分の問題を取り上げて、多様な史料を用いて実証的な研究を行い、以下の諸点を明らかにした。(1)明清時代を通じて「賤」観念の核心は、他者に対する服役性・従属性という点に存在した。(2)明代初期には、法律上の「賎民」を特定の限定された集団に限り、民間で形成される従属関係を法律上の「賤」と切り離す政策が取られた。(3)明代後期には、社会的流動性の増大に伴って服役的な産業が発展し、従来の政策が破綻すると同時に「賤」をめぐる議論が活発化した。(4)清朝に入り、18世紀前半の雍正帝の時代には、被差別集団の戸籍の廃止や契約による奴婢化の容認など、身分をめぐる幾つかの改革が同時になされたが、それらはいずれも、社会的流動性の増大を肯定するとともに、そこに生ずる上下格差を新たな身分制度のもとに秩序化しようとするものであった。(5)清朝のこのような政策は、社会的身分をめぐる激しい競争の一因となり、賎民の身分上昇を抑えようとする既存の紳士階層によってしばしば冒捐冒考紛争(科挙資格や官職の保有を禁じられた賎民が身分を偽って科挙資格・官職の保有をはかったという理由で告発され、訴訟などに至る紛争をいう)が起こった。(6)清代後期に良・賤の判定基準をめぐり煩瑣な法令が制定されたのは、こうした紛争の頻発を背景としている。以上、同時期の日本の身分制度とは大きく異なる明・清時代の身分制度の特色と展開につき、大筋の枠組を明らかにすることができた。

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生前無常さん、衙役は「賎民」という被差別民だったっぽい KAKEN — 研究課題をさがす | 中国の身分制と社会秩序 (KAKENHI-PROJECT-14510383) https://t.co/mIpU6rFfhO 清代衙役为何被归入“贱民”(1)_人文 _光明网 https://t.co/JD8oPpSoQg https://t.co/B4hGu8h0rj

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