著者
森田 宏樹
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度においても引き続き、発信者情報の開示請求制度に関するアメリカ法およびフランス法における判例法の展開および立法対応の現状と問題点の分析を行った。アメリカ法においては、(1)個人の名誉毀損や企業の信用毀損のケースにおいて、違法情報の発信者を特定しないで匿名者"John Doe"を被告として不法行為訴訟を提起し、その訴訟手続内で被告を特定するためにプロバイダー等に対して発令される連邦民事訴訟規則に基づくsubpoena(罰則付召喚令状)による発信者情報の開示請求と、(2)著作権侵害のケースにおいて、不法行為訴訟とは独立に認められる・デジタル世紀著作権法(DMCA)に基づくsubpoenaによる発信者情報の開示請求という2つの法制度が併存しているが、(1)の系列の判例の検討からは、わが国のプロバイダー責任制限法の立案過程において発信者情報開示請求の要件設定に関して参考としたアメリカ法上の先例が、その後の判例の展開の中でどのように位置づけることができるのかを明らかにするとともに、他方で、(2)の系列については、昨年から今年にかけてP2Pによる音楽著作権侵害のケースに関して下された一連の判決の理由において、(2)の手続が(1)の手続と対比して、発信者の匿名性の保護と不法行為による被害者の救済とのバランスのとり方においてどのような意義を有するものと理解されているのかを明らかにすることによって、(1)と(2)のいわば中間に位置するともいえる・わが国の発信者情報開示請求権の意義を評価ないし再確認する視座を得ることができた。また、フランス法においては、違法行為者の発信者情報の開示をプロバイダー等に命ずる最近の急速審理手続(レフェレ)の決定例を検討するとともに、2003年1月に国会に提出された「デジタル経済の信頼」に関する法案(LEN)の審議過程(現在、審議継続中)をフォローした。以上の検討を踏まえて、わが国の近時の下級審裁判例における解釈論上の論点についても検討を進めた。

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