著者
後藤 一樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

2017年4月、ハンセン病を患い四国遍路に赴いた経験のある方を対象に、漂泊と定住の観点から生活史の聞き取りを行った。これまでの継続的な調査により、聞き取り対象者は百名以上となり、ビデオカメラに記録した映像民族誌的データの蓄積も膨大なものになった。今年度は、以上の調査データをもとに、遍路や地域住民らそれぞれの物語の四国遍路における交わりのありようを分析する作業を進めた。成果として、約26万字に及ぶ博士論文『〈漂泊〉と〈定住〉の交響史――四国遍路のクロス・ナラティヴ研究』を執筆、慶應義塾大学大学院社会学研究科に提出し、2018年3月に博士(社会学)が授与された。無縁社会化する現代日本において、家庭・職場・地域の共同体から縁切りする社会的プロセスを辿った調査対象者らの共通経験は、四国遍路の領域で対話を通して響き合い、主従関係や役割関係とは無縁の相互扶助関係を構築していた。その動的過程を明らかにした本研究は、共同体の果てでなされる社会関係の創出に関して、新しい知見をもたらすものである。また、調査の際にビデオカメラに記録した四百時間余りの映像を、パソコンのソフトを用いて編集し、分析した。その成果として、映像モノグラフ『四国遍路――人生の交差する道』を制作した。博士論文の一部は、これにもとづいて考察を行ったものである。映像データを論文内に分厚く記述し、分析する手法を編み出した点にも、本研究の意義が認められる。ほかに、過疎地域の生活実態調査と活性化の取り組みとして、千葉県市原市に所在する商店街において十軒の家族にインタビューを実施し、各家族の口述史や現在の生活を調査した。それぞれの物語は「詩(うた)」と「写真」で表現され、各店舗に展示するための準備も進めた。この取り組みの一環として、成果の一部をカルチュラル・タイフーン2017(早稲田大学、2017年6月24日)で発表した。

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