著者
久野 マリ子
出版者
國學院大學
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成元年(1989)から平成4年(1992)にかけて調査された東京都下のデータが収集されたままになっていた。これらをもとに、『新東京都言語地図』を作成し、発表した。東京方言の伝統的特徴を示す162項目、高年層と青年層の分布図である。首都圏方言の古層を明らかにするには、伝統的な東京方言の実態を明らかにする必要がある。この資料は明治35年~昭和3年生まれの生え抜きの高年層の話者と、昭和42年から昭和45年生まれの青年層の話者について、対面聞き取り調査した資料である。両親もしくは少なくとも一方の親がその土地の出身で、言語形成期をその地で過ごした男性の話者に限定した話者から得られた資料は、平成の世の東京都方言の実態を反映している。調査音声資料が残されている。とりわけ、高年層の話者のデータは貴重で、現在では、すでに明治生まれの話者に話を聞くことは不可能である。当時の東京都下の方言を記録した音声資料を公表することは、東京方言の実態、首都圏方言の研究に大きな価値を持つと言えよう。音韻の項目については、伝統的な音声特徴の年代による差を明らかにした。例えば、ヒとシの混同や、直音化は青年層では消えかけている。連母音の融合では、体言よりも用言の方が融合しやすい。形容詞では場面により青年層で融合形が増加することが指摘された。例えば、「大根」は連母音が融合したデーコンと発音する話者は青年層ではほとんどみられなかった。一方、「痛い」では、とっさの場合に発音するとき、イテーと発音する話者は青年層の方が高年層よりも多く観察された。ただ「痛い」の場合は、イテーと答えた話者は高年層の方が多く、青年層では減っていた。このことから、場面差による連母音の流合が青年層では若者ことばとして広まりつつことあることが予測できる。引き続き、足柄上郡出身の明治20年代生まれの話者によるライフヒストリーの文字化作業も行っている。

言及状況

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https://t.co/bdFQ3tq7wA 平成初期とはどういうことかと思たけど、「平成元年(1989)から平成4年(1992)にかけて調査された東京都下のデータが収集されたままになっていた」ていうことやった。話者の生年は、明治35年生まれから昭和3年までと昭和42年生まれから45年生まれ。

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