著者
安野 翔
出版者
仙台市役所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

陸域と水域の移行帯では、夏季に浮葉・抽水植物が水上葉を展開することで、クモや陸上昆虫にとっての“一時的な陸地”となる。陸域と水域から葉上に餌資源が供給されるため、食物網を通して高次捕食者のニッチが生み出されると考えられる。本研究では、浅い富栄養湖の伊豆沼(伊豆沼)において、ハス群落葉上の徘徊性クモ類の餌資源を明らかにし、葉上食物網形成におけるハスの役割の解明を試みた。2017年6月、7月、9月に、伊豆沼中央部のハス群落内と南岸において、徘徊性のニセキクヅキコモリグモとその餌候補となる水生昆虫及び陸生昆虫を採集した。炭素・窒素安定同位体比(δ^<13>C・δ^<15>N値)の測定後、ベイズ推定を用いた混合モデルにて餌資源を推定した。水生昆虫のδ^<15>N値(各月の平均 ; 7.5~8.3‰)は、陸生昆虫(3.9~5.5‰)よりも高く、餌候補として十分に区別可能な値であった。クモは、調査期間を通して餌候補の昆虫よりも概ね高いδ^<15>N値を示した。一方、9月には、ハス群落内のクモのδ^<13>C値(-26.8±0.6‰(平均±SD))は、岸際の個体(-30.8±1.7‰)よりも高く、地点間で餌資源が異なることが示唆された。混合モデルによる解析の結果、いずれの月、地点においてもクモは陸生昆虫をあまり捕食しておらず、水生昆虫に依存していたことが明らかになった。9月には、ハムシ類(-24.7±0.8‰)とその他の水生昆虫(-30.9±2.8‰)で異なるδ^<13>C値を示したので、別々の餌資源として解析した。その結果、岸際では、クモはハムシ類以外の水生昆虫に依存していたが、ハス群落内では、クモは、ハムシ類に最も依存していた。以上の結果から、ニセキクヅキコモリグモは水生昆虫を主に捕食していること、ハス群落内では、特にイネネクイハムシを含むハムシ類を主に捕食していることが明らかになった。ハス群落は、夏季にクモや昆虫にとっての一時的陸地となるだけではなく、自身がイネネクイハムシの食草となり、クモに餌を供給することで、葉上食物網の形成に寄与していると考えられる。

言及状況

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おそらくこちらの研究成果ですね。徘徊性クモの食性は日本で研究例が少ないのでとても興味深いです。 ・ハス群落による食物網を通したニッチ創出 : 安定同位体比を用いた徘徊性クモの餌推定 https://t.co/MbPUi6BSKz

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