- 著者
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松山 州徳
- 出版者
- 国立感染症研究所
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-01
我々の2016年の報告では、ヒトの風邪の病原体、ヒトコロナウイルスHCoV-229Eは、患者検体から分離された直後は、細胞表面のプロテアーゼ(TMPRSS2)を利用して細胞表面から侵入するが、培養細胞で継代することにより、エンドソーム経路を通りエンドソームのプロテアーゼ(カテプシンL)を利用するように変異することを示した。さらにこの変異ウイルスは、分化したヒト呼吸器上皮細胞(HBTE細胞)では感染力が著しく弱くなることを示した。これらの結果は、HCoV-229Eは生体内ではエンドソーム経路を避けていることを示唆している。本研究においてこれまでに、HCoV-229Eに加え他のヒトコロナウイルス、HCoV-OC43、HCoV-HKU1も臨床分離ウイルスは細胞表面のTMPRSS2を利用して積極的に侵入することを論文報告した。これで我々の仮説である「生体内ではヒトコロナウイルスはエンドソーム経路を避ける」が正しいことが三種のウイルスで確認されたことになる。一方、米国のグループは、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)がゴルジ体のプロテアーゼFurinを利用して細胞侵入することを報告している。この報告について我々は否定的な見解をもっており、我々の研究を進めるうえで、どうしてもFurin経路を否定しておく必要に迫られることとなった。すこし回り道をすることとなったが、MERS-CoV及び他のコロナウイルスはFurinを使って細胞侵入しないことの証明に成功し、論文報告をおこなった。現在我々は、「ウイルスの細胞侵入経路が自然免疫誘導に及ぼす影響」を調べるために、準備を行っている。また解析で得られた知見をもとに、抗ウイルス薬の作用機序の解析も行っている。