- 著者
-
中川 裕
- 出版者
- 東京外国語大学
- 雑誌
- 挑戦的研究(萌芽)
- 巻号頁・発行日
- 2018-06-29
2021年度の主要な調査活動は、(1)蓄積してきた資料の整備と精密な観察・分析と、(2)副産物的な成果として開発した正書法と識字学習ツールの拡張と更新だった。本来予定していたボツワナ共和国カラハリ地域における現地調査はコロナ感染状況がいぜんとして深刻なため実現することができず、その実施は研究期間を延長して、2022年度にする申請を行い承認を得た。上記(1)については、2020年1月までに収集したグイ語音韻獲得データに、さらに1990年代の資料を加えた:すなわち過去において現地調査で収集した録音とフィールドノート記録に子供の発音資料を「発掘」して整理したデータを併せて資料群を拡大整備した。そして、昨年度に引き続き、クリック獲得の過程で観察される置換音パタンがもつ理論的含意に関する考察を、追加資料分析をもとに進めた。この考察の結果は、日本音声学会で行った特別講演「多数のクリック子音をもつ言語は音韻体系をどう組織化するか:コイサン諸語の子音・母音・音素配列」の内容に含まれる子音の音韻的解釈にも反映している。(2)については、研究代表者と研究協力者が、日本アフリカ学会第58回学術大会でポスター発表した。またその後、識字学習用のイラストを追加してオンライン・ツールを充実させた。従来の研究では探求されてこなかった「多数のクリック子音をもつコイサン諸語の音素体系を子供はどのように獲得するか?」という問いに取り組む本研究は音韻獲得研究の射程を拡張しつつある。また、音韻獲得の研究指針に「獲得の難しい音類に関する探求」を組み入れることで、音韻獲得の言語相対性(個別性・類型性)の理論の発展に新しい光を与えつつある。