著者
竹内 努
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

現代宇宙論はビッグバン宇宙論の骨子をほぼ確立し, ビッグバンに先行する急激な膨張期であるインフレーションの検証へと向かっている. インフレーション理論は第一原理から完全に決定することは難しく, 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光のBモード成分を精密に解析することによって初めてシナリオを絞り込むことができる. しかし, 現実的には銀河系や系外銀河などのCMBの前景放射が重なるため, CMBゆらぎの抽出は極めて困難である. CMBゆらぎの観測は飛躍的進歩を遂げたが, 観測精度の向上, 特に偏光ゆらぎの精密化に伴って, CMBと前景成分を分離するための本質的に新しい統計的解析方法が必要になってきている. これが領域A04のメインテーマである。本研究では、これまで天文学分野ではほとんど用いられていなかった自己組織化状態空間モデルという統計的方法を発展させ、Planck衛星のデータをCMBのゆらぎ、銀河系外前景放射、銀河系前景放射、ノイズの4成分に分解し、CMBゆらぎを精密に解析することで初期宇宙の情報を抽出する方法を構築する。前年度はまずこの状態空間モデルで用いる前景放射の各成分の統計的性質を明らかにするため、独立成分分析(ICA)を用いた成分分離法を確立し、分子輝線成分、連続波成分のパワースペクトルを求めた。この成果は学術論文として公表済みである。この統計的性質を仮定することで、状態空間の決定ができる。前年度末にPlanckのデータが公表され、本年度にかけて関連論文も出版されているが、現時点では前景放射の様々な不確定要素が決定していない状態である。このため、H25年度は不定性を含んだ状態で統計的推定を行う自由度を残した解析コードを準備した。新しい観測的制限がつき次第完成できる。当初の目的は達成したと考えているが、新しい銀河系星間物質観測をインプットとし、Planck, BICEP2など次世代データへの応用を引き続き試みていく。

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