著者
谷口 ちさ 石山 恒貴
出版者
一般社団法人 日本キャリア・カウンセリング学会
雑誌
キャリア・カウンセリング研究 (ISSN:24364088)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.79-89, 2022-03-31 (Released:2022-08-19)
参考文献数
28

本稿では,組織を越えたデベロップメンタル・ネットワーク(DN)および支援者(メンター)に着目し,メンタリングへの参画動機とメンタリング・プロセスを通じて獲得した利益について,組織内外の違いを明らかにすることを目的とする。先行研究によれば,組織内DNにおけるメンターは,人の役に立ちたいという向社会的動機と,組織内で影響力を行使したいという動機からメンタリングに携わり,それを通じて自分の過去を再評価するという獲得利益が観察されていた。本稿では,組織を越えたDNにおいて,大学生のキャリア開発を目的としたメンタリングに参画する社会人メンターの参画動機と獲得利益を質的に調査した。結果として,メンターの組織を越えたDNへの参画動機は所属組織に対する閉塞感であり,大学生のキャリア開発支援への参画動機は向社会的動機であった。また,組織を越えたメンタリング・プロセスを通じて視野を広げるだけでなく,その学びを所属組織に還元する動きが明らかとなった。
著者
桃谷 裕子 大塚 泰正
出版者
一般社団法人 日本キャリア・カウンセリング学会
雑誌
キャリア・カウンセリング研究 (ISSN:24364088)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.91-99, 2022-03-31 (Released:2022-08-19)
参考文献数
30

本研究は,McAllisterによる情緒的・認知的信頼尺度(affect- and cognition-based trust measure:ACTM)の日本語版を作成し,日本の労働者を対象にその信頼性と妥当性を検証することを目的とした。情緒的・認知的信頼尺度日本語版(ACTM-J)は,原版を日本語に翻訳し,原版著者によるその逆翻訳のレビューを経て作成した。インターネット調査で得られた日本人労働者291名のデータを用いて,ACTM-Jの信頼性(内的整合性)と構成概念妥当性(因子分析と相関分析)を検証した。確認的因子分析の結果,ACTM-Jは原版と同様の2因子モデルがデータによく適合していた。Cronbachのα係数は情緒的信頼が.94,認知的信頼が.89であり,いずれも内的整合性が高かった。相関分析の結果,この2つのタイプの信頼は,リーダー・メンバー交換関係,職務満足感,組織コミットメント,組織市民行動と正の関連を示し,離職意図と負の関連を示した。これらの結果から,ACTM-Jは一定の信頼性と妥当性を有しており,日本の職場における上司に対する部下の情緒的信頼と認知的信頼を適切に評価できる尺度であることが示された。