- 著者
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長井 圓
- 出版者
- 中央大学法科大学院 ; 2004-
- 雑誌
- 中央ロー・ジャーナル (ISSN:13496239)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.2, pp.45-77, 2016-09
現場再現を含む実況見分(検証)に記載される立会人(犯行現場を目撃したとされる人)の供述は、これを見分した捜査官が直接に作成する同人の供述調書として重要な役割を刑事手続で果す。しかし、この立会人「供述の存在」を動機として捜査官が作成した調書を、見分者の検証結果を報告した書面(刑訴法321条3項)と解することは、伝聞法則を潜在するおそれを内在している。また、かかる書面を立会人の「現場供述」と区別して「現場指示」とする見解も、その名称にもかかわらず、これを訴因事実の認定に用いることは許されない。なぜならば、その調書の記載内容は、「立会人の供述」に他ならないからである。これを「現場指示」と僭称することは、伝聞法則の潜脱」を許容することになる。さらに、かかる書面につき、立会人の「供述の存在」を要証事実(立証事項)とするがゆえに、非供述過程としての証拠能力が付与されるとの見解も、その形式的な説明にもかかわらず、法則潜脱のリスクを免れない。現に「立会人の供述」であるとの実質的性質は不変であるからである。たとえ手続的事実の証明に用いられるとしても、特に「裁判員」に対しては、要証事実を峻別した心証形成を期待するのは無理である。よって、「伝聞法則の潜脱」を回避するには、立会人を公判で被告人または証人として供述させ、その際に見分調書の内容を確認させ、これを供述の一部とすることが要請されよう。