- 著者
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中島 清貴
Kiyotaka Nakashima
京都学園大学経済学部
- 出版者
- 京都学園大学経済学部学会
- 雑誌
- 京都学園大学経済学部論集 (ISSN:09167331)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, no.3, pp.75-115, 2006-03-01
本稿は,Christiano, Eichenbaum, and Evans [1996a][1996b] のアプローチを援用することで外生的な金融政策ショックの識別を図り,金融政策ショックの金利期間構造に与える影響を構造VAR の方法に則って分析している。また,日本のマクロ経済に構造変化が生じていることの可能性を統計的に吟味すべく,誘導形のVAR モデルに対して構造変化の検定を適用したところ,1995年頃に構造変化が生じていることの可能性が指摘される。この1995年の時期は,バブル崩壊以降の不況に対応すべく,日銀がその操作目標であるコール・レートの誘導水準を0.5%以下に設定することに始まった低金利政策の開始時期と期を一にしており,この低金利政策を端緒として国債のイールド・カーブは下限へと推移するに至った。本稿では,この1995年の構造変化時点を,日本のマクロ経済・金融政策・金利期間構造,以上3つの分析対象に対する結節点と捉え,構造変化時点の前後で,金融政策ショックに対する金利期間構造への影響の仕方が如何様に変質しているのかを議論している。そこで,本稿の分析から得られた事実は以下の通りである。第一に,金融政策ショックの国債イールドに与える影響は,1995年以前においては,短期の国債ほど大きな影響が付与され,残存期間の長い国債ほど影響は小さくなっていく。ここでの結果は,米国の戦後の国債データを用いて同様の研究を行ったEvans and Marshall [1998] の指摘するところと同じものである。第二に,1995年以降においては,逆転現象が起きており,短期の国債ほど金融政策ショックに対する影響は小さく,残存期間の長い国債ほど影響は大きくなっていく。第三に,金融政策ショックに対する期間プレミアムへの影響に関して,1995年以前においては,全ての残存期間の国債に負の期間プレミアムが課されることの可能性が指摘される一方,1995年以降においては,全ての残存期間の国債に正の期間プレミアムが課され,両期間共に残存期間の長い国債ほどその影響が大きくなっていくことの可能性が指摘される。第四に,金融政策ショックに対する期間プレミアムの動向を受けて,前期では,金融政策引締めに伴って生じる将来消費の落ち込みというリスクに対して,無担保翌日物コール・レートを安全資産収益率と位置付けた時,国債市場が依然リスクのヘッジ機能を果たしていた可能性が指摘され,対して後期では,金融引締めに伴って,日本の国債市場がリスクのヘッジ機能を果たさなくなってしまう可能性が指摘される。このことから,ゼロ金利政策を解除するための要件として,ゼロ金利解除の時期までの将来の短期誘導金利の経路を日銀が明確にアナウンスすることを通じ,市場参加者の期待形成の大幅な改訂を伴うような事態をあらかじめ回避していくことが求められる。