著者
馬淵 久夫 平尾 良光
出版者
作陽短期大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

三国時代の魏で作られたか日本列島で作られたかが考古学の問題になっている三角縁神獣鏡を材料面から検討するために鉛同位体比の測定を行なった。過去の測定で、三角縁神獣鏡に含まれる鉛は「舶載」も「〓製」も例外なく中国産と推定されているので、異なる鏡式の間の比較に主眼を置いた。研究の結果は次のように要約される。1.鉛同位体比から観測される事実(1)「舶載」三角縁神獣鏡は鉛同位体比図の上で狭い範囲(B-1)に集中し、特定の系統の原料が使われていることを示す。(2)日本出土の魏の紀年鏡は、平成6年出土の青龍三年銘方格規矩四神鏡を含めて、すべてB-1に入る。つまり、「舶載」三角縁神獣鏡と同じ系統の原料で作られていると考えられる。(3)日本出土の呉の紀年鏡は魏の紀年鏡とは別の領域(B-2)に集まる。これは中国出土の呉の紀年鏡と同じ系統の原料である。(4)「〓製」三角縁神獣鏡は「舶載」三角縁神獣鏡と近接するが、明らかに異なる領域(B-3)に分布する。(5)三角縁神獣鏡以外の古墳出土〓製鏡の大部分はB-1、B-2、B-3にまたがって分布し、さらに少数は弥生時代の前漢鏡タイプの鉛を含む。つまり、一定の原料で作られていない。2.三角縁神獣鏡に関する諸説との整合性(1)魏鏡説は、全般的に鉛同位体比の結果と整合性がよい。(2)日本列島製作説は、一定の材料が中国から輸入され、その材料だけを使って「舶載」三角縁神獣鏡が作られたとすると説明がつく。(3)渡来呉人製作説は、(2)のヴァリエーションの一つで、その場合、呉の工人は呉の紀年鏡の材料ではなく、日本列島に輸入されていた一定の材料を使って作ったと考える必要がある。