著者
高橋 大樹
出版者
大津市歴史博物館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

本研究の目的は、戦後流出・拡散し、現在所蔵機関等に分蔵されている近江国日吉社司(社家)生源寺家文書を再構築し、その全体像と伝来過程を見通しながら、中・近世日吉社の運営や組織、文書・記録の生成、さらに幕末・明治期日吉社の神仏分離・廃仏毀釈に至る経過等を検討する前提を整えることにあった。そこで次の2点において調査・研究を進めた。1、所蔵機関のうち大津市歴史博物館蔵分(2群、計1,132点)と國學院大學図書館蔵分(4群、計1,119点)を中心に悉皆調査・整理を進め、写真撮影および目録作成をおこなった。また、残る京都府立京都学・歴史彩館蔵分(35点)と国立歴史民俗博物館蔵分(133点)の写真版を調査し、生源寺家文書全体の目録を作成した。2、近世日吉社の運営や組織、文書・記録生成の実態等を検討するため、生源寺家文書に含まれる生源寺家日記(明和4年〔1767〕~明治4年〔1871〕の間の74冊〔一部欠年あり〕)の解読を進めた。以上により、既知・未知を含めた生源寺家文書(総点数2,419点)の全体像が明らかとなり、また散佚前の旧目録(『神道大系』所収)との比較の結果、その伝来について、①生源寺家→神田家(旧目録作成)→國學院大學図書館、京都府立京都学・歴彩館、国立歴史民俗博物館蔵の文書群とは別に、②生源寺家→収集家(一部が分類)・個人→大津市歴史博物館蔵という流れが確認できた。また、生源寺家日記の解読を進めた結果、それらが個人日記と日吉社司(生源寺・樹下家)による輪番日記とに大別でき、近世日吉社の年中行事や社司の行動、門前町坂本の様子、幕末・明治期日吉社の動静等が詳細に記されていることがわかり、総じて生源寺家文書が近世日吉社研究のための最重要史料であることを確認するに至った。今後、各所蔵館と調整の上、生源寺家文書目録の公開を目指し、また生源寺家日記についても校正・傍注の作業を進め、誌上等に史料紹介していくことが課題である。