- 著者
-
野田 亨
- 出版者
- 学校法人藍野大学 びわこリハビリテーション専門職大学
- 雑誌
- びわこ健康科学 (ISSN:27581780)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.18-28, 2022 (Released:2022-12-28)
- 参考文献数
- 91
古代の中国大陸や朝鮮半島の漢方医学が当時の日本に持たらされた時,漢字表記の身体名称も受容された.このような本来外来語であった漢字表記の身体各部の表現に対して,古代のどのような日本語を対応させていたのかという観点から,人体の「骨」に関する大和言葉を収集した.日本におけるもっとも古い文字資料は古事記,日本書紀,万葉集などであるが,それらに身体各部の骨の名称はほとんど見いだすことはできない.漢方医学の医学書においても,漢語による骨名を確認することはできるが,それがどのような古代日本語(大和言葉)の身体語と対応していたのかは不明な点が多い.やや時代は下るが,平安時代に編纂された倭名類聚抄には身体各部の漢字名称と対応する和訓が万葉仮名で記載されており,現在のところ,この書物が最も古い身体各部の大和言葉を系統的に伝えている資料である.そこで本稿では倭名類聚抄と同時期や鎌倉時代以降に編まれた新撰字鏡,字鏡集,類聚名義抄,身体和名集,さらに文字資料などに記された和訓を確認することにより,「骨」に関わる古い大和言葉による名称を合わせて100以上収集した.本稿では,これら収集した大和言葉による「骨」の名称をそれぞれの身体局所に分け,解剖学や方言学の視点からの検討も加え,古代日本人の言語世界や身体観を考察する.