著者
石川 清
出版者
愛知産業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

イタリア・ルネサンス期の建設活動における職人組織の様態を把握するために,まず初期ルネサンスに職能としての建築家像が形成されていく過程を明確にした.十四世紀フィレンツェのドメニコ派修道院サンタ・マリア・ノヴェッラでは修道院内の職能分離によって早くから呼称されていた「建築家」がその技術的な水準の高さから,やがて公共建築や大聖堂のヴォールト架構等の助言者として修道院外においても活躍するようになる実態を明らかにし,十五世紀前半においては,世俗の職人組織の中から,異なったタイプの3人のマエストロ,フィリッポ・ブルネレスキ,ミケロッツォ・ディ・バルトロメオ,アントニオ・ディ・マネット・チャッケリがが「建築家」と呼ばれるようになったかを,彼らが携わった建築現場の様態を示す建設記録とルネサンス期の市民的人文主義者による建築に対する論述の中に現れる記述表現の変遷を文献学的な側面から検証し,職人組織の中でのその職能の分化過程に見出し,建設職人組織の様態の相貌を明らかにする手掛かりとした.中世期の都市停滞期に喪失した建築家像が十五世紀に入ってアルベルティの『建築論』の中で再び構築されていったが,同時に現在なおイタリア都市の性格を物質的に規定し続けている建築の文化的地平が都市機能充実の気運によって営まれた建設活動の中で培われた技術と職人組織とその建設法のシステム化によって支えられたことをさらに裏づけた.ルネサンスの都市化現象に通底した芸術生産活動における組織編成の変容とその過程を射程することによって,ルネサンス期の芸術文化,都市文化の相貌を正確にすることとした.イタリアの中世末期から初期ルネサンス期にかけての職人工房における組織的制作の手順を多次元的に把握することを試みた.
著者
石川 清
出版者
愛知産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

当該研究は、中世後期のイタリアの各地方都市(フィレンツェ・シエナ・ヴィテルボ・ローマなど)にける街路の公的都市規制と、それに伴う都市住宅・都市景観の様態変化を把握するために、(a)中世後期の市民生活形態、(b)街路を構成する建築の建設過程、(c)中世後期の都市条例statuti、(d)中世後期の政治体制を調査し、これらの分析を並列的に進めていくことで、イタリアの都市の街路における公道と私道の成立の実態、それに面する邸宅に関する法的規制の歴史的経緯を把握することによって、イタリア中世の都市生活の様態に新しい知見を見出そうと試みたものである。平成16年度から平成18年度にかけて、(1)イタリア中世後期の都市条例、(2)街路に面する景観整備のための建築規制、(3)統一的美観の成立:建築ファサードにおけるラスティケーションの導入、(4)街路環境整備のための道路監督官制度、(5)街路に面する住居建築のパラダイムの変容、を順を追って分析・考察することで、イタリア中世後期における都市景観に対する法的整備の様態を解明した。イタリアでは14世紀初頭には、我が国で言うところのいわゆる「景観法」がすでに成立しており、統一的都市景観という意識が個人都市住宅の設計理念に組み込まれていたことを垣間見ることができた。中世都市国家の中で法的整備がなされ、かつその当時の都市条例が現存する都市に分析対象が絞られたが、中世イタリアの都市国家における都市景観に対する考え方の相貌は把握できたと考える。